翌日から、ルナは男子生徒たちにダンスを一緒に踊らないかと誘われるようになった。ルナは一番最初に誘ってきたレイブンクローの七年生にオーケーした。名前は忘れたが、顔はそこそこ良い生徒だった。ルナは自暴自棄になっていた上に、セブルスの嫌がることをすべてしてやりたいという気持ちだった。
 ルナが眼鏡を取ったことで、男子たちからの視線を集めるようになった。ルナはそんな彼らを思いきり侮蔑した。フレッドとジョージは「こんな身近なところにグリフィンドールの姫がいたなんて!」と恭しくルナの手を取ったが、それが冗談だとわかりきっていたため、笑って流した。一方ロンはやたらと自分に挨拶してくるようになった。そんなロンを、ハーマイオニーは冷めた目で見ていた。態度を変えなかったのはネビルだけだった。
「……セブルスの言いつけを守らないことにしたの」
 ルナは談話室の片隅で、ネビルにこっそりと話した。ネビルはわお、と驚いていたものの、楽しそうだった。
「だから眼鏡をかけなくなったんだね」
「そう……これからセブルスの嫌がることを全部してあげるの。ダンスパーティーが楽しみだわ――」
 
 クリスマス当日、ハーマイオニーが五時から支度するというので、ルナも同じく支度に入った。ホグズミードで買ったらしく、ハーマイオニーは大量のスリーク・イージーの直毛薬を髪に塗り込んでいた。
「私も買えばよかった」
 ルナは自分の癖のあるたっぷりとした赤毛を、どうにかしようと格闘していた。
「私のを一個あげるわ。そのくらいの癖なら十分直るはず」
「ありがとう!」
「化粧品はある?」
 ルナは首を振った。
「口紅くらいしか持ってないの」
「それはもったいないわ! せっかくだもの、私のを貸してあげる……」
 ハーマイオニーに化粧の仕方を教わりながら、ルナはアイシャドーを塗りラインを引いた。最後に紅を引けば、いつもとは違う華やかな自分がいた。
「とっても素敵よ!」
「ハーマイオニーだって!」
 つやつやになった髪を結い上げたハーマイオニーは、文句のつけようがなかった。
「これならロンも褒めてくれると思うわ」
「どうしてロンが出てくるの?」
 狼狽しているハーマイオニーに、ルナはクスクスと笑った。
「なんとなく。クラムと楽しんで」
「ありがとう、ルナもね!」
 談話室を抜けて玄関ホールに行くと、色とりどりの生徒でごった返していた。大広間のドアが開放される八時を待っているようだった。
「やあ、ルナ!」
 自分を誘ったレイブンクロー生がやってきた。タキシードのようなローブを着た彼は、背が高く目立っていた。
「すごく綺麗だよ」
「……あなたも」
 そう答えれば、彼は嬉しそうに笑った。
 正面玄関の樫の扉が開いた。カルカロフと一緒に入って来るダームストラング校の生徒を皆が振り返って見た。一行の先頭はクラムで、ハーマイオニーを連れていた。外の芝生は魔法で洞窟のようになっていて、中は妖精の光が満ちていた――何百という生きた妖精が、魔法で作られたバラの園に座ったり、サンタクロースとトナカイのような形をした石像の上をヒラヒラ飛び廻ったりしていた。やるならここだ、とルナは決意した。
 マクゴナガル先生の声が響いた。「代表選手はこちらへ!」
 ハリーがパーバティとともに前に進み出たのが見えた。ルナはその姿を見ても何とも思わなかった。マクゴナガル先生は赤いタータンチェックのドレスローブを着ていた。先生は代表選手に向かって、ほかの生徒がすべて入場するまで、ドアの脇で待つようにと指示した。代表選手は、生徒が全部着席してから列を作って大広間に入場することになっているようだった。フラー・デラクールとレイブンクローのキャプテン、ロジャー・デイビスは、ドアに一番近いところに陣取った。デイビスは、フラーをパートナーに出来た幸運に酔っているようで、目がフラーに釘づけになっていた。セドリック・ディゴリーとチョウ・チャンも、その近くに座った。
 ルナたちは彼らの前を通り過ぎ、大広間へ入った。大広間の壁は銀色に輝く霜で覆われ、星の瞬く黒い天井の下には、何百というヤドリギや蔦の花綱が絡んでいた。各寮のテーブルは消えていて、かわりに、ランタンの灰かな灯りに照らされている、十人ほどが座れる小さなテーブルが、百余り置かれていた。ルナはわざと、ハイ・テーブルに座るセブルスの視界に入るように、彼の前のテーブルにレイブンクロー生を誘導して座った。案の定、セブルスは顔をしかめていた。
 金色に輝く皿には、まだ何のご馳走もなかったが、小さなメニューが一人ひとりの前に置かれていた。ダンブルドアが自分のメニューをじっくり眺め、自分の皿に向かって「ポークチョップ!」と言うと、彼の皿にポークチョップが現れた。それから皆、それぞれ自分の皿に向かって注文をした。
「僕、君が眼鏡をかけていたときから、ずっと君を気にかけていたんだ」
 レイブンクロー生はウインナーを食べながら言った。
 嘘つけ、とルナは思ったが、魔法のチークのおかげもあり、かわいらしく頬を染めることに成功した。レイブンクロー生は気を良くしたらしく、テーブルの下でルナの手を握ってきた。よしよし、この調子だ。
 皆が食事を食べ終わると、ダンブルドアが立ち上がり、生徒たちにも立ち上がるように促した。そして杖を一振りすると、テーブルは壁際に退き、広いスペースが出来た。それから、ダンブルドアは右手の壁に沿ってステージを立ち上げた。ドラム一式、ギター数本、リュート、チェロ、バグパイプがそこに設置されていた。
 『妖女シスターズ』が、熱狂的な拍手に迎えられてステージに上がった。代表選手たちがパートナーと一緒に立ち上がり、踊り出した。しばらくすると、皆がダンスフロアに出た。レイブンクロー生はリードするのが上手く、踊ったことのないルナも踊りが上手くなったように感じるほどだった。そばではネビルがジニーと踊っていた。ジニーの足を踏んでしまうらしく、ジニーは時々痛そうに身をすくませた。ダンブルドアは、マダム・マクシームとワルツを踊っていた。ムーディは、シニストラ先生とぎこちなく二拍子のステップを踏んでいた。ちらとセブルスを探せば、彼の姿はなかった。ここにいないとするならば、外しかない。
「……ちょっと、外に出てみない?」
 演奏が終わったところでルナはレイブンクロー生に呼びかけた。いいね、と彼は頷き、一緒に石段を降りた。バラの園に飛び廻る妖精の光が、瞬き、きらめいていた。あちらこちらに彫刻を施したベンチが置かれ、人が座っていた。ルナはバラの園に延びる小道の一つを選んで歩き出した。あまり奥に行くとセブルスに見つからない可能性があるため、近くにあったバラの茂みの影へ彼を連れて行った。
 彼はやる気に満ちあふれていた。彼はルナを抱き寄せると、頬に手を置いた。ルナは不快感に震えた。その震えを緊張によるものだと勘違いしたらしく、彼はそっとルナの頭を撫でて――髪が崩れるのでやめてほしい――「大丈夫だよ」と囁いた。そして――
 ばんと大きな音がして、急に茂みが吹き飛んだ。
「なんだ!?」
 あちこちから悲鳴が上がった。
「ハッフルパフ、十点減点だ、フォーセット!」
 セブルスだ。ルナは彼がカルカロフとともにいるのが見えた。
「さらに、レイブンクローも十点減点だ、ステビンズ! ルナ、そこで何をしている?」
 隣にいるレイブンクロー生はルナをかばおうと口を開いたが、セブルスを前にして何も言えないようだった。ルナは「キスしようとしてたんです」と平然と言った。セブルスは怒りに顔を歪めた。
「レイブンクロー一〇点減点、グリフィンドールも一〇点減点だ……ところでお前たちは何をしている?」
 セブルスの視線の先に、ハリーとロンの姿があった。
「歩いています」と、ロンが短く答えた。「規則違反ではありませんね?」
「それなら、歩き続けろ!」
 セブルスは唸るように言うと、二人の脇をさっと通り過ぎた。長い黒マントが翻った。カルカロフは急いでスネイプのあとに続いた。
 ルナたちは大広間に戻った。レイブンクロー生は気を取り直して踊ろうと言ったが、ルナはセブルスがいなくなった今、踊る気にはならず断った。彼は代わりにルナを楽しませようと、話をしてくれた。ルナは彼に罪悪感を覚えた。自分は彼を利用していたのに、彼はそれに気づかず退屈を感じないようにしてくれている。
「……あなたの名前、もう一度教えて?」
 ルナが尋ねると、彼は驚いたようだが、冗談だろう、というように笑った。
「ジョン・ウィリアムズだよ、君の名前も聞いていいかい?」
「ルナ・スネイプよ」
 正確にはルナ・ポッターだけど。心の中でそう付け足した。
『妖女シスターズ』が、演奏を終えたのは真夜中だった。皆が最後に盛大な拍手を送り、玄関ホールへの方向へと移動しはじめた。ルナはジョンと別れ、グリフィンドールの談話室に入った。いろいろと疲れた夜だった。ルナは他の女子たちと一緒に寮に入り、部屋着に着替えて髪をほどくとベッドに入った。セブルスの嫌がることをしたが、思っていたほど楽しいものではなく、むなしさだけが残った。
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