対スリザリンとの優勝杯がかかった試合の日は、穏やかで風のない日だった。
 怒涛のような歓声の中、選手がグラウンドに入ってきた。ルナは真紅のバラ飾りを胸に付けていた。リー・ジョーダンが作って皆に配ったのだ。スリザリンのゴール・ポストの後ろでは、二百人の観衆が緑の上着を着て、スリザリンの旗にシンボルの銀色の蛇をきらめかせていた。セブルスが一番前列に陣取り、皆と同じ緑色の服を着ていた。この日ばかりは、ルナとセブルスも敵同士だった。
 十四本の箒がいっせいに飛び上がり、ホイッスルの音は歓声で掻き消された。マルフォイがハリーのすぐ後ろにくっ付いていた。ハリーはスピードを上げた。試合はグリフィンドールが優勢だった。しかしルナが今まで見た中で最悪の試合だった。グリフィンドールが早々とリードを奪ったことで怒りをあらわにしたスリザリンチームは、たちまち、クァッフルを奪うためには手段を選ばない戦法に出たのだ。ルナはまた汚い言葉が出かかったが、頑張って抑えた。
 グリフィンドールチームはそんな戦法に負けず、ケイティ、アンジェリーナ、アリアナが得点を決めた。そして六十点のリードとなった。
 ハリーが急に猛烈な速度を出した。しかしマルフォイが、前に身体を乗り出してファイアボルトの尾を握り締め、引っ張った。
「ペナルティー! グリフィンドールにペナルティー・ゴール! こんな手口は見たことがありません!」マダム・フーチが、金切り声を上げた。マルフォイは、自分のニンバス二〇〇一の上で身体を元の体勢に戻した。
「このゲス野郎!」リー・ジョーダンがマクゴナガルの手の届かないところへと躍り出ながら、マイクに向かって叫んでいた。「このカス、卑怯者、この――」
 マクゴナガルは、リーのことを叱るどころではなかった。先生もマルフォイに向かって拳を振り、帽子を頭から落として、怒り狂って叫んでいたのだ。ルナはその様子に思わず笑ってしまった。
 ハリーが再びスピードを上げた。マルフォイに近付いて行った……スリザリン・チームのボールが、ハリーめがけてブラッジャーを打ち込んだ……ハリーは箒の柄にピッタリ身体を伏せた……マルフォイの踵まで追いついた――並んだ――
 ハリーは、両手を箒から離し、思いっきり身体を乗り出した。マルフォイの手を払い退けた。そして――
「やった!」
 ハリーは急降下から反転し、空中高く手を突き出した。競技場は爆発したかのようだった。グリフィンドール・チームは地上に向かって降下して行った。
 真紅の応援団が柵を乗り越えて、波のようにグラウンドになだれ込んだ。次の瞬間、ハリーも他の選手も、皆に肩車されていた。周りにいたグリフィンドール生は皆グラウンドに行き、いなくなっていた。嬉しさに胸がいっぱいになりながら、ルナはセブルスの方を見た。彼はこんな不快な出来事は今までにない、というような様子で顔をしかめていた。ふと目が合い、ルナはピースしてみせた。セブルスはゆるく首を振った。

 試験がはじまり、週明けの城は異様な静けさに包まれていた。月曜日の昼食時、三年生は『変身術』の教室から、血の気も失せた状態で出て来た。結果を比べ合ったり、試験の課題が難し過ぎたと嘆いたりしていた。ティーポットを陸亀に変えるという課題だった。
「僕のは、尻尾のところがポットの注ぎ口のままさ。悪夢だよ……」
「亀って、そもそも口から湯気を出すんだっけ?」
「僕のなんか、甲羅に柳の木の模様が付いたままだったんだ。ねえ、減点されるかなあ?」
 ルナはちゃんと陸亀に変えた自信があったため、ネビルたちの問いにすべて大丈夫だよと返した。それから慌ただしい昼食を食べた後、すぐに『呪文学』の教室に向かって試験を受けた。フリットウィックは『元気の出る呪文』をテストに出した。夕食後、皆急いで談話室に戻ったのだが、のんびりするためではなく、次の試験科目、『魔法生物飼育学』、『魔法薬学』、『天文学』の復習をするためだった。
 次の日の午前中、『魔法生物飼育学』の試験監督はハグリッドだったが、よほどの心配事がある様子で、まったく心ここにあらずの状態だった。取れたばかりのフロバーワームを大きな入れ物にいっぱいに入れ、一時間後に皆のフロバーワームがまだ生きていたらテストは合格だと言い渡した。フロバーワームは放っておくと最高に調子が良いため、こんな楽な試験はまたとなかった。ハグリッドが何をそんなに心配しているのか、ルナは気にかかったが、ハグリッドがハリーにこっそりと話しているのを見て気にするのをやめた。
 午後は魔法薬学だった。ルナは混乱薬をきちんと調合し、そばに立ったセブルスは頷いて数字をノートに書き込んだ。
 次は、真夜中に一番高い塔に登っての天文学。水曜の朝は魔法史。水曜の午後は薬草学の試験。皆、すべてが終わる翌日の今頃を待ち焦がれた。
 最後から二番目のテストは、木曜の午前中の『闇の魔法に対する防衛術』だった。ルーピンは独特の試験を出題した。戸外での障害物競走のようなもので、グリンディローが入った深いプールを渡り、レッドキャップがいっぱい潜んでいる穴だらけの場所を横切り、道に迷わせようと誘うヒンキーパンクをかわして沼地を通り抜け、最後に、古い保管庫を開けて、その中に入り込んでいる新しいボガートと闘うというものだった。
 ルナはすべて完壁にこなし、ボガートがひそむ保管庫まで来た。自分を落ち着かせるよう深呼吸して、ボガートに挑んだが――
「セブルス!」
 ボガートはセブルスの亡骸をルナに見せた。ルナの足は崩れ、床に膝をついた。自然と涙がこぼれる。しかしそれがボガートだと言うことを、ルナは忘れていなかった。彼の胸にすがりつきながら、ルナは唱えた。
「リ、リディクラス!」
 セブルスは生き返った。同時に先日ネビルが想像したネビルの祖母の格好になった。ルナは嬉しくてボガートに抱きついた。しばらくそうしていたからか、ルーピンが様子を見に来て気まずそうに言った。
「ルナ? 嬉しいのはわかるけど、それはセブルスではないよ」
 城に戻ると、皆が昼食を食べながら、午後には試験が全部終わるということを楽しみに興奮してはしゃいでいた。しかし、ハリーとロン、ハーマイオニーは暗い顔をしていた。やはりハグリッドの件で何かあるようだ。
 最後の試験は占い学だった。トレローニーの教室に上がる螺旋階段には他の生徒が大勢腰掛け、最後の詰め込みをしていた。
「一人ひとり試験するんだって」
 隣に座っていたネビルが教えてくれた。ネビルの膝には、『未来の霧を晴らす』の教科書が置かれ、水晶玉のぺージが開かれていた。
「水晶玉の中に何でもいいから、何か見えたことある?」
「ないよ」
 教室の外で待つ列は、なかなか短くならなかった。ようやく名前を呼ばれてハシゴを上る。ルナは水晶玉に何も見えていなかったが、適当にでっち上げ――自分に身の危険があると言えばトレローニーの受けも良くなるのだ――試験を終えた。
 セブルスがブラックを捕らえ、そして逃げられたと知ったのは、その次の日のことだった。そして、セブルスがルーピンを狼人間だとスリザリン生に話したのも、その日の朝のことだった。昨日の満月の晩、彼は野放し状態だったという。ルナはルーピンがいなくなる前に彼と話したかったが、ルナが彼の教室に行ったときにはもぬけの殻だった。
 ルーピンが居なくなってがっかりしたのはルナだけではなかった。『闇の魔法に対する防衡術』で授業を受けていた全生徒が、ルーピンが辞めたことで惨めな気持ちになっていたのだ。
「来年は、いったい誰が来るんだろう?」シェーマスも落ち込んでいた。
「バンパイアじゃないかな」ディーンは期待を込めて言った。
 学期の最後の日に、試験の結果が発表された。ルナは全科目合格だった。ヒーラーになるためには当然合格でなければならなかったため、ルナは安堵した。しかし、セブルスの機嫌は最悪だった。ルーピンとブラック、そしてハリーとの間で何かあったことは、彼の授業におけるハリーへの態度を見れば明らかだった。グリフィンドール寮が三年連続で寮杯を獲得したことも、影響しているのかもしれない。
「ねえ、セブルス」
 スピナーズ・エンドに帰ろうと、セブルスの部屋に入ったルナは、杖を振ってトランクに荷物を詰め込むセブルスに言った。
「不機嫌なのはいいけど、それは家には持ち帰らないでね」
「……別に、不機嫌ではない」
 そう言ったセブルスの声音は低く、確実に機嫌が悪かった。ルナは肩をすくめ、その背中に抱きついた。
「何をする」
「そういうときは人の体温を感じるのが一番なの。ほら、落ち着くでしょ?」
 セブルスは自分の腰に回ったルナの腕を取ると、ルナと向き合った。何か言われると思ったが、彼は無言で自分を抱きしめた。ぎゅうと抱きしめられ、ルナはセブルスの腕の中でクスクスと笑った。なんだ、セブルスも自分と触れあいたかったのか。ルナは彼の背中に手を回してこたえた。
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