ルナたちは翌朝、コリンが石化してしまったことをマクゴナガル先生とフリットウィック先生の会話で知った。早くポリジュース薬を作らなければ、とマートルのいるトイレで調合に取りかかった。ハリーと関わるなと言われていることを、ルナはすっかり忘れた。
 コリン・クリーヴィーが襲われ、今は医務室に死んだように横たわっているというニュースは、月曜の朝には学校中に広まっていた。一年生は一人で勝手に動くと襲われると思っているようで、しっかり集団で固まり、城の中を移動するようになった。
 ジニーは呪文学でコリンと隣の席だったらしく、すっかり落ち込んでいた。双子はジニーを励まそうとしてなのか、毛を生やしたり、おできだらけになったりして、像の陰から交替でジニーの前に飛び出していた。パーシーはひどく怒って、ようやく二人をやめさせた。
 十二月の二週目に、例年通り、マクゴナガル先生がクリスマス休暇中学校に残る生徒の名前を調べに来た。ハリー、ロン、ハーマイオニーは名前を書いた。ルナも残りたかったが、セブルスに怪しまれるとマズいということで、おとなしく帰ることにした。マルフォイも残ると聞き、ルナは残念に思った。マルフォイから話を聞く絶好のチャンスなのに。
 薬はまだ半分までしかできていなかった。バイコーンの角とブームスランの皮が必要だった。それらを手に入れられるのは、ただ一箇所、セブルスの個人用保管庫だけだった。
「君からスネイプ――先生に、材料が欲しいって言ってくれないかい?」
 ロンにそう言われ、ルナは首を振る。
「そんなこと言っても怪しまれるだけだわ。ポリジュース薬を作ろうとしてるって知られるだろうし」
「やっぱり、盗むしかないのよ」
 ハーマイオニーがきびきびと言った。
「必要なのは、気を逸らすことよ。そして、私たちのうち誰か一人がスネイプ先生の部屋に忍び込んで、必要な物をいただくの」
「私がやるわ」
 ルナは言った。
「私なら、失敗してもセブルスは許してくれると思う」
 ロンたちは不安げにこちらを見た。
「わかったわ……じゃあ私たちが騒ぎを起こして、五分くらいスネイプ先生を足止めしておく」
 授業は大きな地下室の一つで行われていた。木曜の午後の授業は、いつもと変わらず進行した。大鍋が二十個、机と机の間で湯気を立たせ、机の上には真鍮秤と、材料の入った広口瓶が置かれていた。セブルスは蒸気の中を、グリフィンドール生の薬に意地の悪い批評をしながら歩き回り、スリザリン生はそれを聞いて嘲笑っていた。マルフォイは、ロンとハリーにフグの目玉を投げつけていた。
 セブルスがハリーのところで立ち止まって、薬が薄すぎると嘲けった。そして背を向けてその場を離れ、ネビルをいびりに行ったとき、ルナはハリーの目を捉え、頷いた。
 ハリーは素早く大鍋の陰に身をかがめ、ポケットからフレッドのフィリバスター花火を取り出し、すぐに杖で突ついた。花火はシュウシュウ、パチパチと音を立て始めた。ハリーは立ち上がり、狙い定めて花火を高く放り投げた。命中した。花火はゴイルの大釜に落ちた。
 ルナは爆発音と共に教室を出た。保管庫は幸い鍵はかかっておらず、バイコーンの角とブームスランの皮をすばやくローブのポケットに入れ、すぐに教室に戻った。戻ったときには、皆が解毒剤を飲み、それぞれの膨れがおさまっていた。セブルスはゴイルの大鍋の底から黒い縮れた花火の燃えかすをすくい上げた。沈黙が訪れた。
「これを投げ入れた者が誰か、判明したときには」
 セブルスは囁くように言った。
「私が、間違いなく退学にさせてやる」
 セブルスはハリーを真っ直ぐに見据えていた。
「スネイプは僕がやったってわかってる」
 四人で急いで嘆きのマートルのトイレに戻る途中、ハリーは言った。
「バレてるよ」
「大丈夫よ」
 ルナは言った。自分が関わっているのだから、ハリーたちは罰せられない。
 ハーマイオニーは大鍋に新しい材料を放り込み、夢中でかき混ぜ始めた。
「あと二週間ででき上がるわ」彼女は嬉しそうに言った。
 一週間後、ルナたちがエントランスホールを歩いていると、掲示板の前にちょっとした人だかりができ、貼り出されたばかりの紙を読んでいた。シェーマスとディーンが興奮した様子で手招きした。
「決闘クラブをはじめるんだってよ! 今夜が一回目だ! 決闘の練習なら悪くないな。近々役に立つかも……」
「え、君、スリザリンの怪物が、決闘なんかできると思ってるのかい?」
 そう言いながらも、ロンも興味津々で掲示を読んだ。
「役に立つかもな」
 夕食に向かう途中、ロンはルナたちに言った。
「俺たちも行こうか?」
 皆乗り気で、その晩八時に四人は再び大広間へと急いだ。長いダイニングテーブルは消え、一方の壁に金色の舞台が出現していた。何千本もの蝋燭が宙を漂い、舞台を照らしていた。ほとんど学校中の生徒が各々杖を持ち、興奮した面持ちで立っていた。
「いったい、誰が教えるのかしら?」
 生徒たちの群れの中に割り込みながら、ハーマイオニーが言った。
「誰かが言ってたけど、フリットウィック先生って若い時、決闘戦士だったんですって。たぶん先生よ」
「誰だっていいよ。あいつでなければ――」
 ハリーはそう言い掛けたが、その後は呻き声になった。ギルデロイ・ロックハートが舞台に登場したのだ。きらびやかな赤紫色のローブを纏い、後ろにいつもの黒いローブを着たセブルスを従えていた。
 ロックハートは生徒たちに手を振り、静かにするようにと呼び掛けた。
「皆さん、集まって。さあ、集まって! 私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構、結構! ダンブルドア校長から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。私自身、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要がある万一の場合に備え、皆さんをしっかり鍛え上げるためです――詳しくは、私の著書を読んでください。では、助手のスネイプ先生を紹介しましょう」
 ロックハートは満面の笑みを振りまいた。
「スネイプ先生は、決闘についてごくわずかにご存知らしい。訓練をはじめるにあたり、短い実演をするために、手伝っていただけることになりました。さてさて、若い皆さんに心配を掛けたくはありません――私が先生と手合わせした後でも、皆さんの調合薬学の先生は、ちゃんと存在します。ご心配なく!」
 セブルスの上唇がめくれ上がっていた。ロックハートはよく笑っていられるものだ。
 ロックハートとセブルスは向き合って一礼したが、ロックハートの方は腕を振り上げ、くねくね回しながら身体の前に持ってきて、大げさな礼をした。セブルスは不機嫌そうに頭を下げただけだった。それから、二人とも杖を剣のように構えた。
「ご覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています」
 ロックハートはしんとした観衆に向かって説明した。
「三つ数えて、最初の呪文を唱えます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」
「一――二――三――」
 二人とも杖を肩より高く振り上げ、セブルスが叫んだ――「エクスペリアームス!」
 目も眩むような紅の閃光が走ったかと思うと、ロックハートは舞台から後ろ向きに吹き飛び、壁に激突すると、壁伝いに滑り落ちて床に大の字になった。
 マルフォイや数人のスリザリン生が歓声を上げた。ハーマイオニーは爪先立ちで跳ねていた。彼女は手で顔を覆い、「先生、大丈夫かしら?」と指の間から金切り声を上げた。
「さあね」ルナとハリーとロンは声をそろえた。
 ロックハートはフラフラ立ち上がった。帽子は吹き飛び、ウェーブがかった髪が逆立っていた。
「さあ、皆さんわかったね! あれが武装解除魔法です――ご覧のとおり、私は杖を失ったわけです――ああ、ミス・ブラウン、ありがとう。スネイプ先生、たしかに生徒にあの魔法を見せようとしたのは素晴らしい考えです。しかし、遠慮なく申し上げれば、先生が何をなさろうとしたか、あまりにも見え透いていましたね。止めようと思えば、いとも簡単にできたでしょう。しかし、生徒に見せたほうが教育的に良いと思いましてね……」
 セブルスは殺気だっていた。ロックハートもそれに気づいたらしかった。
「模範演技はこれで十分! これから皆さんのところへ下りていって、二人ずつ組にします。スネイプ先生、手伝ってもらえますか……」
 二人は生徒の群れに入り、二人ずつペアを組ませた。ロックハートはネビルとジャスティン・フィンチ・フレッチリーを組ませ、セブルスは最初にハリーとロンのところに来た。
「どうやら、名コンビもお別れの時が来たようだな」
 彼は嘲笑った。
「ウィーズリー、君はフィニガンと組みたまえ。ポッターは――」
 ハリーがこちらの方に寄ってきた。
「そうはいかん」
 セブルスは冷笑を浮かべた。
「ミスター・マルフォイ、来たまえ。かの有名なポッターを、君がどう捌くか拝見しよう。それと君、ミス・グレンジャー――君はミス・バルストロードと組みたまえ。ミス・スネイプ、君は私とだ」
 どうして、と尋ねようとして、やめた。セブルスは怒っているようだった。大広間の横の小部屋に連れて行かれる。
「バイコーンの角とブームスランの皮が私の保管庫からなくなった」
 セブルスは吐き捨てるように言った。
「盗ったのは、ルナ、お前だな?」
「なんで私だって決めつけるの?」
「爆発のときにお前の姿がなかった」
 迂闊だった。セブルスは一番最初に自分の無事を確かめてくれたのだ。
「ポッターたちと関わるのはやめろ! さもなければ――」
 セブルスは逡巡するような顔を見せ、それから重々しく言った。
「……お前と絶縁する」
 ルナは呆然とセブルスを見上げた。セブルスはハリーを嫌っているが、まさかここまでだとは思わなかった。
「……わかったわ、もうハリーたちと関わらない」
 そう言われては折れるしかなかった。セブルスに縁を切られることは、何としても避けたかった。
「わかったなら、いい」
 そう言ってセブルスは大広間へ戻った。ルナも後に続く。ルナは反省していた。セブルスの目をかいくぐり、盗ったと知られても許してくれるという傲慢があった。
 生徒たちの決闘は終わったようで、皆それぞれ疲弊していた。
「なんと、なんと」
 ロックハートは生徒の群れの中を素早く軽快に進みながら、決闘の結末を見て回っていた。
「マクミラン、立ち上がって……気をつけて、ミス・フォーセット……しっかり押さえていなさい。鼻血はすぐ止まるから、ブート……どうやら、非友好的な呪文の防ぎ方を教えた方がいいようですね」
 大広間の中心に立ち、面食らいながらロックハートは言った。
「さて、誰か進んでモデルになる組はありますか? ――ロングボトムとフィンチ・フレッチリー、どうです?」
「ロックハート先生、それはまずい」
 セブルスが滑り出た。
「ロングボトムは、簡単極まりない呪文でさえ惨事を引き起こす。フィンチ・フレッチリーの残骸を、マッチ箱に入れて医務室に運び込むことになるでしょうな」
 ネビルのピンク色の丸顔がますます濃くなった。セブルスは口元を歪めて笑った。
「マルフォイとポッターはどうでしょう?」
「それは名案!」
 ロックハートはハリーとマルフォイに大広間の中心に来るよう手招きした。他の生徒たちは下がって、二人のために空間を空けた。
「三――ニ――一――それ!」
 マルフォイは素早く杖を振り上げ、怒鳴った――「サーペンソーティア!」
 マルフォイの杖の先が炸裂し、長い黒ヘビが出てきた。ヘビは二人の間にドサッと落ち、鎌首をもたげて攻撃の態勢を取った。生徒たちは悲鳴を上げ、素早く後ずさりし、そこだけが広く空いた。
「動くな、ポッター」
 セブルスが落ち着きはらった声で言った。ハリーが威嚇するヘビと目を合わせ、立ちすくんでいる光景を楽しんでいることがわかった。セブルスは本当にハリーをいびるのが好きだ。
「私が追い払ってやろう……」
「私にお任せを!」ロックハートが叫んだ。
 彼はヘビに向かって杖をこれ見よがしに振り回すと、バーンと大きな音がして、ヘビは消え去るどころか、十フィート宙を飛んでから床に落ちた。怒り狂ったヘビは、ジャスティン・フィンチ・フレッチリーめがけて滑り寄り、再び鎌首をもたげ、牙を剥き出して攻撃の構えを取った。
 ハリーは前に進み、そして、ヘビに向かってシューと何かを話した。蛇語だと、ルナはすぐにわかった。本で読んで知っている。どうしてハリーは蛇語を話せるのだろう。
「いったい、何でからかうんだ?」
 ジャスティンはそう叫ぶと、ハリーが何か言う前に背を向け、大広間から荒々しく出ていった。
 セブルスが進み出て杖を振ると、ヘビは黒い煙を上げて消え去った。鋭く探るような視線をハリーに向けていた。ロンがハリーの後ろからローブの後ろを引っ張った。
「さあ、来て。いこう――さあ……」
 ロンはそう囁くと、ハリーをホールの外へと連れ出した。ハーマイオニーも急いでついていった。ルナはその場にとどまった。なぜハリーが蛇語を話せるのか知りたかったが、ハリーたちと関わらないと約束した手前、後を追うことは出来なかった。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -