それから数日は、学校中、ミセス・ノリスが襲われた話でもちきりだった。
 ハリーがセブルスに罰則を言いつけられた日――セブルスは何かにつけてハリーに罰則を与えたがる――ルナたちは昼食を終えた後、図書館で魔法史の宿題に取りかかった。ビンズ先生の宿題は、『中世におけるヨーロッパ魔術師会議』について三フィートの長さの作文を書くことだった。
「おいおい、まだ八インチも足りないなんて……」
 ロンは怒って羊皮紙から手を離した。紙はまた丸まった。
「ルナ、ちょっと見せてくれない?」
「だめよ。自分でやらないと」
「前は見せてくれたじゃないか。ハーマイオニーが二人いるみたいだ」
 ルナは無視することにした。
「ハーマイオニーはどこ?」
 ハリーも巻尺を掴んで、自分の作文を広げながら尋ねた。
「あの辺にいる」
 ロンは書棚のあたりを指差した。
「また別の本を探してる。あいつ、クリスマスまでに図書室の本を全部読むつもりなんじゃないか?」
「ふーん……さっき、ハッフルパフのフレッチリーに会ったんだけど、僕を見て逃げてった」
「そんなこと気にするな。俺、あいつ、ちょっと間抜けだと思ってたよ。ロックハートが偉大だとか、バカバカしいことを言ってたじゃないか――」
 ハーマイオニーが書棚の間から現れた。苛ついているようだった。
「『ホグワーツの歴史』が全部貸し出されてるの。しかも、あと二週間は予約でいっぱい。私のを家に置いてこなければよかった。残念だわ。でも、ロックハートの本でいっぱいだったから、トランクに入り切らなかったの」
「どうして、その本が読みたいんだい?」
「みんなが借りたがっている理由と同じよ。秘密の部屋の伝説を調べたいの」
「どういう伝説?」
「まさにその疑問よ。それがどうしても思い出せないの」
 ハーマイオニーは唇を噛んだ。
「しかも、他のどの本にも書いてないの――」
「ハーマイオニー、君の作文見せて」
 ロンが時計を見ながら懇願した。
「ダメ、見せない。提出までに十日もあったじゃない」
「あとたった二インチなんだけどな。いいよ、いいよ……」
 鐘が鳴った。ロンとハーマイオニーはルナとハリーの先に立って、口喧嘩しながら魔法史の授業に向かった。
 魔法史は時間割の中で一番退屈な科目だった。ビンズ先生は年老いたしなびた先生で、皆は自分が死んだことにも気づかなかっただろうと言っていた。
 今日もいつものように退屈な授業だった。ビンズ先生は教科書を開き、一本調子の低い声で読み上げ始めた。ほとんどクラス全員が催眠術にかかったようにぼーっとなり、時々我に返っては、名前や年号をノートに取り、またすぐ眠りに落ちるのだった。先生が三十分も読み上げ続けたころ、今までに一度もなかったことが起きた。ハーマイオニーが手を挙げたのだ。
 ビンズ先生はちょうど、一二八九年の国際魔術師協定についての、ひどく退屈な講義の真っ最中だったが、目を上げて、驚いたようにハーマイオニーを見つめた。
「ミス――あー――」
「グレンジャーです、先生。秘密の部屋について何か教えていただけませんか?」
 口を開けて窓の外を眺めていたディーン・トーマスは催眠状態から急に覚醒し、両腕を枕にしていたラベンダー・ブラウンは頭を持ち上げ、ネビルの肘は机から滑り落ちた。
 ビンズ先生は目を瞬かせ、しゃがれ声で言った。
「私が教えるのは魔法史です。事実を教えるのであり、ミス・グレンジャー、神話や伝説ではない」
 先生はコホンと咳払いし、授業を続けた。
「同じ年の九月、サルデーニャの魔術師小委員会で――」
 先生は口を閉じた。ハーマイオニーの手がまた挙がっていた。
「ミス・グラント?」
「先生、お願いです。伝説というのは必ず事実に基づいているのではありませんか?」
 ビンズ先生はハーマイオニーをまじまじと見つめた。
「ふむ。まあ、そんなふうにも言えましょう。たぶん」
 先生はゆっくりとそう言うと、ハーマイオニーをじっと見た。今まで一度も生徒をまともに見たことがないかのようだった。
「しかしながら。あなたが言うところの伝説とは、まことに人騒がせなものであり、荒唐無稽な話とさえ言えるものであり……」
 いまや、クラス全員がビンズ先生の一言一言に耳を傾けていた。先生はぼんやりと生徒を見渡した。どの顔も彼の方を向いていた。こんなに興味を示されたことがなく、先生は完全にまごついているとわかった。
「あー、よろしい」
 先生は噛みしめるように語り出した。
「さて……秘密の部屋とは……皆さんも知ってのとおり、ホグワーツは一千年以上も前――正確な年号は不明であるからして――その当時の、もっとも偉大なる四人の魔女と魔術師たちによって創設された。創設者の名前にちなみ、その四つの学寮を次のように名付けた。ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そしてサラザール・スリザリン。彼らはマグルの詮索好きな目から遠く離れたこの地に、ともにこの城を築いた。何故ならその時代、魔法は一般に恐れられ、魔女や魔術師は多大なる迫害を受けていたからだ。数年の間、創設者たちは調和的で、魔力のある若者たちを探し出しては、この城に誘って教育した。しかしながら、四人の間に意見の相違が出てきた。スリザリンと、他の三人との間に亀裂が広がっていった。スリザリンは、ホグワーツには選別された生徒のみが入学を許されるべきだと考えたからだ。スリザリンは、魔法教育は純粋に魔法族の家系にのみ与えられるべきだという信念を持っていた。マグルの親を持つ生徒は学ぶ資格がないと考えて、入学させることを嫌った。しばらくして、この問題をめぐって、スリザリンとグリフィンドールが激しく言い争い、スリザリンが学校を去った」
 ビンズ先生はここで少し口を閉じた。
「信頼できる歴史的資料はここまでしか語ってくれん。しかし、こうした事実が秘密の部屋という空想の伝説によって、曖昧なものになっとる。スリザリンがこの城に、他の創設者にはまったく知られていない、隠された部屋を作ったという話がある。その伝説によれば、スリザリンは秘密の部屋を密封し、この学校に彼の真の継承者が現れる時まで、その部屋を開けることができないようにしたということだ。その継承者のみが、秘密の部屋の封印を解き、その中の恐怖を解き放ち、それを用いてこの学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放するらしい」
 ビンズ先生が語り終えると、沈黙となった。もっと話して欲しいという落ち着かない空気が漂っていた。ビンズ先生はかすかに苛立った様子を見せた。
「もちろんすべて、まったくの作り話です。当然ながら、そのような部屋の確証を求め、学識ある魔女や魔術師が何度もこの学校を探索したが、そのようなものは存在しなかった。騙されやすい者を怖がらせる作り話だ」
 ハーマイオニーの手がまた挙がった。
「先生――『部屋の中の恐怖』というのは具体的に何ですか?」
「何らかの怪物だと信じられており、スリザリンの継承者のみが操ることができるという」
 ビンズ先生が干からびた甲高い声で答え、生徒は恐々互いに顔を見合わた。先生が教科書をめくりながら言った。
「言っておきましょう。そんなものは存在しません。部屋などありません、怪物もおらんのです」
「でも、先生」
 シェーマス・フィニガンが言った。
「もし部屋がスリザリンの真の継承者によってのみ開けられるなら、他の誰もそれを見つけることはできない、そうでしょう?」
「馬鹿げてます、オフラハティ君」
 先生の声が険しくなった。
「歴代のホグワーツ校長と副校長方が、何も発見しなかったのだからして――」
「でも、ビンズ先生」
 パーバティ・パチルが甲高い声を出した。
「そこを開けるのには、闇の魔術を使わないといけないのでは――」
「ミス・ペニフェザー、闇の魔術を使わないからといって、対応できないということにはならない。繰り返しではあるが、もしダンブルドアのようなお方が――」
「でも、スリザリンと繋がってないといけないのでは。だから、ダンブルドアは――」
 ディーン・トーマスがそう言い掛けたところで、ビンズ先生はもうたくさんだとばかりに話を打ち切った。
「以上、終わりです。これは、作り話です! 部屋は存在しません! スリザリンが部屋どころか、秘密の箒置き場さえ作った形跡はない! こんな馬鹿げた作り話を聞かせたことを悔やんでいる! よろしければ、歴史に戻ることにする。実態のある、信ずるに足る、検証できる事実である歴史に!」
 ものの五分もしないうちに、クラス全員がいつもの無気力状態に戻ってしまった。
 授業が終わり、夕食前に寮に鞄を置きに行く生徒でごった返す廊下を掻き分けながら、ロンが「サラザール・スリザリンが狂った変人だってことは知ってたさ」と、ルナたちに話し掛けた。
「でも知らなかったな、例の純血主義の何のをスリザリンが言い出したなんて。俺なら金を貰ったって、そんなやつの寮に入らないね。はっきり言って、組分け帽子が俺をスリザリンに入れてたら、汽車に飛び乗って真っ直ぐ家に帰ってたな……って、ごめん、君の父さんはスリザリンだったね」
「構わないわ。スリザリンにはマルフォイもいるし、私からしたら嫌な寮よ」
 ルナはそう答え、ふと横にいるハリーを見た。顔色が悪い。
「どうしたの、ハリー? なんだか顔色が悪いわ」
「いや、大丈夫……」
 人波に流されていく途中、コリン・クリーヴィーが傍を通った。
「やあ、ハリー!」
「やあ、コリン」
「ハリー、ハリー、僕のクラスの子が言ってたんだけど、君って――」
 しかし、コリンは小さ過ぎて人波に逆らえず、大広間の方へ流されると、「あとでね、ハリー!」と声を残していってしまった。
「クラスの子があなたのこと、なんて言ってたのかしら?」
「僕がスリザリンの継承者だとか言ってたんだろう」
「ここの連中ときたら、何でも信じ込み過ぎだ」
 ロンが吐き捨てるように言った。混雑も一段落して、楽に階段を上がることができた。
 四人は角を曲がり、ちょうどあの事件があった廊下の端へと出た。四人は立ち止まって、あたりを見回した。現場はちょうどあの夜と同じようだった。壁には『秘密の部屋は開かれたり』と書かれたままだった。
「あそこ、フィルチが見張ってるとこだ」
 ロンが呟き、四人は顔を見合わせた。廊下には誰もいなかった。
「ちょっと調べたって何も悪くはないだろう」
 ハリーはそう言って鞄を放り、四つん這いになった。
「焦げ痕がある! ここにも――そっちも――」
「来て見て! 変だわ……」
 ハーマイオニーの声にハリーは立ち上がり、壁の文字の脇にある窓に近づいた。ハーマイオニーは一番上の窓枠を指差していた。二十匹あまりのクモが、ガラスの小さな割れ目から先を争って這い出そうとしていた。
「クモがあんな行動するの、見たことある?」
「ううん。ルナは?」
「ないよ。ロンは? あれ、ロン?」
 肩越しに振り返ると、ロンはずっと後方に立ち、逃げ出したいのを必死でこらえているようだった。
「どうしたんだい?」
「俺――クモが――好きじゃ――ない」
 ロンの声は引きつっていた。
「そうなの?」
「まあ、知らなかったわ」
 ハーマイオニーは驚いたようにロンを見た。
「クモなんて、薬学で何回も使ってるじゃない……」「死んだやつなら平気だ。あいつらの動き方が嫌なんだ……」
 ハーマイオニーはクスクス笑った。
「何がおかしいんだよ。訳が知りたいなら言うけど、俺が三つの時、フレッドのおもちゃの箒を折ったんで、あいつったら俺の――俺のテディベアをバカでかい大蜘蛛に変えたんだ。考えてもみろよ。熊のぬいぐるみを抱いてる時に、急に肢がたくさん生えてきて、そして……」
 ロンは身震いして言葉を途切らせた。ハーマイオニーは明らかに笑いをこらえていた。
「床の水溜りのこと、覚えてる? あれ、どっから来た水だろう。誰かが拭き取っちゃったけど」
 ハリーが話題を変えた。
「このあたりだった」
 ロンは気を取り直して、フィルチの置いた椅子から数歩離れたところまで歩き、床を指差した。
「このドアのところだった」
 彼は真鍮の取っ手に手を伸ばしたが、やけどしたかのように手を引っ込めた。
「どうかした?」
「ここは入れない。女子トイレだ」
「ああ、ここには誰もいないわよ」
 ルナはそう言い、ハーマイオニーも頷いた。
「そう。そこ、嘆きのマートルの場所だもの。来て、覗いてみましょう」
『故障中』と大きく書かれた掲示を無視して、ハーマイオニーはドアを開けた。ここにはあまり足を踏み入れたくない。大きな鏡はひび割れ、染みだらけで、その前にあちこち縁の欠けた石造りの手洗い台が並んでいる。床は湿っぽく、燭台の中で燃え尽きそうになっている数本の蝋燭が、鈍い明かりを床に映していた。個室の木のドアはペンキが剥げ落ち、引っ掻き傷だらけで、そのうちの一枚は蝶番が外れてぶら下がっていた。
 ハーマイオニーは指を唇に当て、一番奥の個室に歩いていき、「こんにちは、マートル。お元気?」と声を掛けた。
 ルナたちも見に行った。嘆きのマートルはトイレのタンクの上で浮かびながら、顎のにきびをつぶしていた。
「ここは女子のトイレよ」
 マートルはロンとハリーを怪訝そうに見た。
「この人たち、女子じゃないわ」
「そうね。私、この人たちに、ちょっと見せたかったの。えーと――ここが素敵なとこだって」
 ハーマイオニーは濡れた床のあたりを漠然と手で示した。
「何か見なかったか、聞いてみて」
 ハリーはハーマイオニーに口元で伝えた。
「何をこそこそしてるの?」
 マートルがハリーをじっと見た。
「何でもないよ。僕たち、聞きたいことが――」
「みんな、私の陰口を言うのはやめて欲しいの!」
 マートルは涙で声を詰まらせた。これは駄目だ。
「私、確かに死んでるけど、感情はちゃんとあるのよ」
「マートル、誰もあなたを傷つけようとは思ってないわ。ハリーはただ――」
「傷つけようと思っていないですって! 冗談でしょう! 私の生きてる間の人生って、この学校では悲惨そのものだった。今度はみんなが、死んだ私の人生を台無しにするためにやって来るのよ!」
「あなたが近ごろ何かおかしなものを見なかったかどうか、それを聞きたかったの。ちょうどあなたの玄関前で、ハロウィーンの日に猫が襲われたものだから」
「あの夜、このあたりで誰か見掛けなかった?」
 ハリーも尋ねた。
「そんなこと、気にしてられなかったわ。ピーブスがあんまり酷い物だから、私、ここに入って自殺しようとしたの。そしたら、当然だけど、急に思い出したの。私って――私って――」
「もう死んでた」
 ロンが手助けするようにあとを続けた。
 マートルは痛ましいすすり泣きとともに飛び上がり、向きを変えて逆さまに便器の中へ飛び込んだ。四人に水飛沫を浴びせ、彼女は姿を消したが、くぐもった泣き声の聞こえて来る方向からすると、トイレの配管のどこかでじっとしているようだった。
 ハリーとロンは口をポカンと開けて立っていたが、ルナは呆れかえり、ハーマイオニーはやれやれと肩をすくめながら言った。
「まったく、あれでもマートルにしては機嫌がいいほうなのよ……さあ、出ましょう」
 マートルのゴボゴボというすすり泣きを背に、ハリーがトイレのドアを閉めるか閉めないかするうちに、大きな声が聞こえてきて、四人は飛び上がった。
「ロン!」
 階段の上にパーシー・ウィーズリーがいた。監督生バッジを輝かせ、衝撃を受けた顔をしていた。
「そこは女子トイレだ! 君たち男子が、いったい何を――?」
「ちょっと探してただけさ」
 ロンが肩をすくめた。
「ほら、手掛かりをね……」
「そこから――とっとと――離れるんだ――」
 パーシーは大股で近づいて来て、腕を振って四人を追い立て始めた。
「人が見たらどう思うかわからないのか? 皆が夕食の席に着いているのに、またここに戻って来るなど……」
「なんで俺たちがここにいちゃいけないんだ?」
 ロンは立ち止まり、パーシーを睨みつけた。
「いいか。俺たち、あの猫に指一本触れてない!」
「僕もジニーにそう言った。だがあの子は、それでも君たちが退学になると思っている。あんなに動揺して、目を泣き腫らしているジニーを見るのは初めてだ。少しはあの子のことも考えてやれ。一年生は皆、この事件で神経をすり減らしているんだ――」
「兄さんはジニーのことを心配してるんじゃない」
 ロンの耳が赤くなりつつあった。
「兄さんが心配してるのは、首席になるチャンスを、俺が台無しにするってことだ」
「グリフィンドール、五点減点! おまえにはいい薬になるだろう! 探偵ごっこはもうやめにしろ。さもないと母さんに手紙を書くぞ!」
 パーシーは大股で歩き去った。その首筋は、ロンの耳に負けず劣らず真っ赤だった。

 その夜ルナたちは、談話室でできるだけパーシーから離れた場所を選んだ。
「けど、いったい何者かしら?」
 ハーマイオニーの声は落ち着いていて、それまでの会話の続きのように自然だった。
「スクイブやマグル出身の子を、ホグワーツから追い出したいと思ってるのは誰?」
「では、考えてみましょう」
 ロンはわざと首を捻った。
「我々の知っている人の中で、マグル生まれはクズだと思っている人物は誰でしょう?」
 ロンはハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは納得できない顔で彼を見返した。
「もし、あなたがマルフォイのことを言ってるなら――」
「言ってるとも! あいつが言ったこと聞いたろう? 『次はおまえたちだぞ、穢れた血め!』って。しっかりしろよ。あの嫌なねずみ顔を見ただけで、あいつだってわかりそうなもんだろう――?」
「マルフォイが、スリザリンの継承者?」
 ハーマイオニーはまだ腑に落ちない顔をしていた。
「あいつの家族を見なよ」
 ハリーも教科書を閉じた。
「あいつの家系は皆スリザリン出身だ、いつもそれを自慢してる。あいつらなら、スリザリンの末喬だっておかしくはない。あいつの父親は、どこから見ても悪だよ」
「あいつらなら、何世紀も秘密の部屋の鍵を預かってたかもしれない! 親から子へ代々伝えて……」
「そうね、その可能性はあると思うわ……」
「でも、どうやって証明する?」
 ハリーは顔を曇らせた。
「方法がないことはないわ」
 ハーマイオニーはそうゆっくりと言い、いっそう声を落とすと、部屋の向こうにいるパーシーを盗み見ながら言った。
「もちろん、難しいわ。それに危険よ、とっても。学校の規則をざっと五十は破ることになるわね」
「あと一、二ヶ月くらいして、君が説明したくなったら、その時に話してくれるんだろう?」
 ロンは苛立ちながら言った。
「そうするわ」
 ハーマイオニーは冷たく言った。
「何をしなければならないかと言うと、私たちがスリザリンの談話室に入って、マルフォイに正体を気づかれずに、いくつか質問することよ」
「不可能だよ」
 ハリーが言い、ロンは笑った。
「もしかして、ポリジュース薬?」
 ルナが言うとハーマイオニーはにっこり笑った。
「そう!」
「それ、何?」
 ロンとハリーが同時に言った。
「数週間前、スネイプ――先生が(ハーマイオニーはちらとこちらを見て付け足した)――授業で話してた――」
「薬学の授業中に、俺たちがスネイプの話を聞いてると思ってるのかい? もっとましなことしてるよ」
「自分以外の誰かに変身できる薬よ。考えてみて! 私たち四人で、スリザリンの誰か四人に変身するの。誰も私たちの正体を知らない。マルフォイはたぶん、なんでも話してくれるわ。今ごろ、スリザリンの談話室で、その自慢話の真っ最中かもしれない。それさえ聞ければ」
「そのポリジュース何とかって、少し危なっかしいな」
 ロンは顔をしかめた。
「もし、元に戻れなくて、永久にスリザリンの誰かの姿のままだったらどうする?」
「しばらくすると効き目は切れるの」
 ハーマイオニーはもどかしげに手を振った。
「調合法を手に入れることの方がとっても難しいわ。『もっとも強力な調合薬』という本にそれが書いてあるって、スネイプ先生は言ってた。きっと図書室の禁書棚にあるはずよ」
「その本、セブルスの部屋にあるわ」
「本当?」
「うん、読んだこともある……確かにポリジュース薬の調合法が書いてあったわ」
「その本を持ち帰ることってできるかい?」
「クリスマス休暇のときにこっそり持って帰ることはできるかも……でも、クリスマスじゃ遅すぎるでしょう?」
「そうね……」
「じゃあ、やっぱり禁書棚から借りるしかないな」
「でも、薬を作るつもりはないけど、そんな本が読みたいって言ったら、そりゃ変に思われるだろう?」
「たぶん」
 ハーマイオニーはロンの言葉に答えた。
「理論に興味があるだけなんだって思わせれば、もしかしたらうまくいくかも……」
「いや、先生だってそんなに甘くないぜ。だまされるとしたら、よっぽど鈍い先生だな……」
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