la mer

 付き合えば、サンジのメロリンもなくなるだろう。ララは少し期待していたが、それは一向に治らなかった。

「ああ恋よ、この日の出会いをありがとう……あなたのサンジです」

 せっかくの休みの日。デートに誘ってくれたのはサンジの方なのに、本人は道行く女性に跪いている。ララはハアとため息をつくと、サンジを無視して歩き出した。もうあんなやつは知らない。
 一向に後を追って来ないのが気になり、ちらりと後ろを見る。サンジは女性といい感じになったらしく、彼女の肩に手を置いて別の方向に歩き出していた。驚いたララは、ちょっとサンジ!!と大声で叫ぶ。サンジはこちらを見てはっとしたらしく、女性に断って慌てたように走ってきた。

「ララ、悪ィ、いつもの癖で……」

「………」

 ララはサンジを睨むと、再び歩き出した。本当にごめんな、と謝るサンジを一瞥して、ララは口を開いた。

「サンジ、私は怒りを通り越して呆れてます」

「……はい」

「サンジが女の人にメロリンするところを、二度と見たくありません」

 従って、とサンジに指を差す。

「メロリンするの禁止!!」

 サンジは困ったように眉を下げた。

「いやララ、禁止っつってもこれは癖みてェなもんで……」

「禁止は禁止!! 以後気をつけるように!!」

 もうどこにも行けないように、サンジの腕に自分の腕を絡める。サンジは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに困り顔になった。その様子を見て少し可哀想になったが、いやいやと首を振る。ここで許したら終わり。サンジの癖は治らないのだ。
 カフェに行こう、とララが言い、二人は近くにあったカフェに入った。テーブルにつき、注文を頼んだ店員さんは案の定(?)可愛い人で、ちらとサンジを見る。サンジは我慢しているようで、目はハートではなかったが、タバコの煙はハート型になっていた。ララは思わず吹き出す。

「ふふっ」

「どうした?」

 サンジは気付いてないようなのが余計におかしい。ひとしきり笑った後、正面に座るサンジを見据える。

「……いいよ、サンジ。やっぱりさっきの解除する」

「さっきのって、メロリン禁止ってやつか?」

 うん、と頷くとサンジはホッとしたようだった。

「でも、何でだ? さっきはあんなに怒ってただろ」

「女の人にメロリンしないサンジは、サンジじゃないもん。それに、私が腕組んでちゃんと見てれば防げるしね」

 にっこりと笑うと、サンジは突然立ち上がった。何やらわなわなと震えている。

「……サンジ?」

「ララ、そんなにおれのことを想ってくれるなんて……!」

「?」

 若干涙声のサンジに、なんだなんだと思っていると、サンジはパッと顔をあげた。決然とした表情で、彼は言った。

「ララ、おれ、ララのことを一生……」

「お待たせしました! アイスコーヒーとアイスティーになります」

「……………」

 店員さんがちょうど、頼んだものを持ってきた。礼を言って受けとると、ララはサンジに向き合った。

「さっき、なんて言おうとしたの?」

「……いや、何でもねェ」

 おれとしたことが、とか、もっと雰囲気にあるところで、とか何やらぶつぶつ言っている。ララは不思議に思いながらも、詳しく聞くことはせず、アイスティーのストローを口に含んだ。


20180107
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