※長谷部が気持ち悪いし主も何か汚い



「失礼します、主」

 朝、主に声をかけてから少しの間をおき身支度がある程度終わったであろう時間を見計らって入室する。
 "現世"からこの本丸にやってきた主はここでの生活に戸惑っていらっしゃった。畳の上に布団を敷いて寝ること、風呂や料理を火を起こすところから始めなければならないこと、すべてに慣れないご様子で未だに着物だってまともに着られない。そんな主に毎朝着付けをする。
 最初は次郎太刀や乱藤四郎に着付けを手伝ってもらおうとしていた主に奴らも男だ、何かあってからでは遅い、と必死に説得してそのお役目を賜った。

「本日はどの色の着物にしましょうか?」

「そうだね……昨日は赤色だったから今日は藤色にしてみようかな」

 主の希望通りの着物を用意し、着付けの準備を整える。失礼しますと声をかけて主の寝間着の帯をほどき、なるべく主の肌を見ないよう目を伏せる。主は俺を信頼してこの役目を与えてくれたのだから決してやましいことをしてはいけない。主の期待に応えなければ。そうは思っていてもチラチラと目に映る主の肌をもっとよく見てしまいたいと欲が出る。
……今まで我慢してきたのだ、少しくらいは許されるかもしれない。
 そう思って襦袢を着せるために背後に回り、主の背中を目に収める。白く艶やかな肌が美しく、女特有の柔らかな線を描いている身体は触れればとても気持ちが良さそうだ。この白い背中に口付けて所有の痕を残せたらどんなに気分が良いだろう!

「長谷部……どうかした?」

 なかなか襦袢を着せない俺を不思議に思った主に声をかけられはっとする。ちらりと盗み見る程度にとどめようとしたのに何たる失態をおかしてしまったのか!

「も、申し訳ありません主! ただちに!」

 謝罪の言葉を口にして襦袢の袖を主の腕に通す。一歩近付いた際に主の首もと、うなじのあたりに剃り残したであろう毛が生えているのが見えた。あんなにお美しく完璧な主にも無駄毛というものは存在するのか!
 どこかで神聖視していた主が一気に俗物的に見えてくる。主も人間なのだ!
 主の剃り残したであろう毛を目に入れた瞬間からかっと全身が熱くなる感覚に陥った。心臓がばくばくと脈打ち、まるで心臓が耳元にあるかのように感じるほどにうるさく鳴っている。主はこの毛の存在に気付いていない、俺が代わりに処理して差し上げたい。いや、剃り残しと云わず全ての処理を任せてほしい!
 着付けは俺に任せてくれているのだ、風呂の世話もさせてくれたって良いだろう。排泄のお手伝いもさせてほしい。主命とあらば夜伽だって何だって……



「ありがとう長谷部!長谷部は着付けの機動もナンバーワンだね……ってあれ、何で屈んでるの大丈夫?」

 お腹でも痛いの?そう心配してくださる主に笑顔で先に朝食に向かうよう促す。
 大丈夫です主、少し邪まな欲が己の下腹部で主張しているだけです。
- ナノ -