この美しい身体で、どうにか、あの人の心を手に入れる事ができないだろうか。この、白くて細い女のような身体で。あるじの、心を。
 この白魚のような手で、あの人の肌をなぞりたい。この赤い舌をあの人の首筋に這わせたい。いや、あの人の手がこの白い肌をなぞればいい。あの人の舌が、この細い首を這えばいい。天下人を、みんなを、狂わせてきたこの僕に目を奪われ、傾倒し、すべてを捧げればいい。僕を籠の鳥として、大事に大事に閉じ込めればいいんだ。あの人になら、閉じ込められてもいい。
 それでもあの人は僕を戦に、遠征に、外へと出す。お飾りだった僕を使って戦わせる。天下人が欲してきた僕から目を離し、自由にする。それは求めていたものではあった。戦に出て、刀を振るい、敵を切り裂く。敵を切り伏せる瞬間は絶頂すら覚えるような快感があった。それはきっと刀として当然の感覚なのだろう。その感覚さえも、あの人は受け入れてくれる。「刀として」の僕を大切にしてくれる。でも、あの人は歴代の天下人のような執着を見せてはくれない。
 僕を美しいと褒め、刻印をこの身体に刻み込み、大事に飾っておくという事をあの人はしない。そうしないあるじに好感を持ったのは確かだし、それが始まりだろう。でも、僕の扱いがへし切長谷部へのそれと同じなのは不満でならない。あいつだけじゃない、他の刀と、この僕が、同列に扱われている。だからと言って特別扱いされるのは、僕が他の刀と能力で少し劣るぶん惨めだ。でも、それでも、僕はあの人に特別に思ってほしい。戦闘能力や天下人の刀としてじゃなく、僕を、僕自身を、特別に扱ってほしい。


 なんてそんな事を素直に言えるはずもなく、今日もあるじに悪態をつく。

「僕はあなたの元に帰ってくるしかないんですよ」
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