愛とは」の長谷部のおはなし


拝啓 梅雨空が続く毎日ですが主はいかがお過ごしでしょうか。

 突然ではありますが、俺は主を愛しています。本当の本当に、愛しています。他にどんな言葉で表現すれば良いのか分からないのですが、ただひとつ言える事は、俺はあなたを愛している、その言葉に嘘偽りはないという事です。あなたのどこを好きになったのか、何が良いのか、言葉では言い表せません。すべてが、あなたのすべてが好きなのです。主と出会ったあの日、それは運命に他なりません。初めて見た瞬間から、俺はあなたを「良い」と思いました。初めはただ単純にあなたを好意的に見ていただけでしたが、次第にそれは恋心へと変わっていきました。ただ「良い」と思っていたこの気持ちが、いつ「愛している」に変わったのかは俺も覚えてはいません。気が付いたら、あなたを愛していたのです。
 俺が見ているあなたはもしかしたら表面上のごく一部にすぎないのかもしれません。いえ、かもしれない、ではなくきっとそうなのでしょう。それでも、俺はあなたを愛しています。先ほども言いましたが、あなたのどこを好きになって、どこを愛しているのかは自分でもよく分かっていないのです。ごく一部のあなたの表面しか見えていなくて、あとは自分の理想を主に押し付けて勝手に夢を見て勝手に愛していると嘯いている、そうお思いでしょう。でも、そうではないのです。信じていただけないかもしれませんが、あなたがどんな人間であろうと愛する自信はあります。あなたを愛している、その言葉に嘘偽りはありませんから。
 例えば主が傲慢な人間で、俺を下に見る事であなたの自尊心が満たされるのならば、俺はいくらでも惨めになりましょう。例えば主が加虐的な人間で、俺に暴力をふるう事で日頃の憤りが軽減されるのならば、俺はいくらでも耐えましょう。例えば主が色好みな人間で、その有り余る欲望を俺にぶつけてくれるとしたら、それ以上に嬉しい事はありません。あなたの欲望はすべて俺が叶えます。どうぞ道具のように扱って、ボロボロになったら捨ててください。
 俺は、あなたのためならば何だってしてみせます。あなたの事をいつも想っています。愛している。愛しているのです。主は俺の事を愛してくれなくても良いのです。どうか、どうか俺をお側においてください。それだけで満足です。主のお側にいられる事以上の幸福などありません。

…………本当は、ひとかけらでも良いから俺の事を好きになってほしい。俺以外の連中に命令してほしくない。主の命は、俺がいなければ果たされないものであってほしいと、そう願います。

それでは、梅雨冷えの肌寒い日もありますが、風邪など引かれませんように。

敬具

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