※現パロ。よそ様の影響を色濃く受けています。ごめんなさい。





『鶯先輩がいまどこそこのパーティ会場にいるんだって!』

 興奮冷めやらない様子で電話の向こう側のお友達が叫んでいる。鶯丸がいまどこにいるかなんて私に言われても困る。彼女であるはずの私を一ヶ月以上もほったらかして、連絡ひとつとれなくなった相手など知るものか。何がパーティだ。自分は人の話を聞かない不思議ちゃんのくせして派手な人たちとつるんじゃって。パーリーピーポーの仲間入りなのか。パーリー丸って呼んでやるぞ、とそこまで考えて、自分のネーミングセンスのなさに絶望する。語呂も悪ければ「○○丸」という点以外は名前に関連性なんてない。ああ、頭の悪さが露呈する。

『行かないの? 行かなくて後悔しないの? 本当にそれで良いの?』

 ああもう、うるさいなあ。いいったらいいんだよ。ほったらかしてきた相手なんて知らないんだってば。
 心の中ではそう叫んでいるはずなのに、何故か私の足はその会場とやらに向かっている。歩いていたはずの私の足は何故か歩みを速めていく。牛歩は駆け足に、駆け足は全力疾走へと変わる。どうして私はヒールなんて履いているのだろう。走りにくいったらありゃしない! 縺れる足と乱れる呼吸、ズキズキと痛む脇腹に私の気分は急降下していく。どうして私がこんな思いをしなければならないんだ。世の中間違っている。一途に待ち続ける女の子じゃなくて、ほったらかしにする男に天罰が下るシステムにならないだろうか。ああそうか、私は「一途な女の子」なんて可愛いものじゃないからこんな思いをするのか。やっぱり世の中間違っている。





 お友達の言っていた会場とやらに着いた。走ったせいで息は相変わらず乱れているし、髪もボサボサだ。でも、これで一ヶ月もの間なんの音沙汰もなかった愛しいあの人と会えるのだ。さっきまではあんなにイライラして、バチが当たれ、とまで思っていた人物と会える事がこんなにもワクワクするだなんて、なんてゲンキンな人間なのだろう。ああ、でもそれが私という人間なのだ。仕方ない、仕方のない事なのだ。
 すうっ、と大きく息を吸い込み、扉へと手をかける。重い扉を体全体を使ってゆっくりとこじ開ける。扉の向こう側の部屋は酷くがらんとしていて、そこかしこに缶チューハイやお菓子の袋が散らばっている。中には、誰ひとりとしていなかった。ああ、私は来るのが遅かった。もうここにはあの人はいないんだ。そう思ったら急に身体の力が抜け、膝からがくん、とその場に崩れ落ちた。無駄な事をしてしまった。人の目を気にせず全力疾走だなんて、私らしくない事をしてしまった。意味のない期待なんてしなければ良かった。連絡がとれなくなったあの時点で、自然消滅したと思えば良かった。ポロリと、私の頬を伝うこの感触も、すべて消えてなくなればいいのに。

「そこでなにをしているんだ?」

 突然背後から聞こえていた懐かしい声に驚き勢い良く後ろを振り向けば、そこには恋い焦がれた例のあの人が立っていた。ふんわりとした癖毛も、穏やかな声も、一ヶ月以上も前と変わっていなくてぶわりとまた涙が溢れた。

「まさかこんな所までくるとはなあ」

 困ったように笑う彼に飛びつき、その胸を叩くと、いてっ、と呟き彼は笑った。その顔も、声も、彼のすべてが好き。それがなんとなく悔しくて、さっきよりも強く叩いてやる。また彼は笑った。
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