自業自得


※小学生(いろいろ捏造)
※蘭がいじめっ子
※竜胆視点



 友達に囲まれて楽しそうに笑っている幼馴染、ナマエの姿が見える。彼女の三つ編みに結われた長い髪が揺れた。その髪かわいいね、そう友達に言われ、ナマエははにかむ。

「いいでしょー。お母さんにやってもらったの」

 ナマエの笑顔は相変わらずかわいい。三つ編み姿も似合っているな、なんて思いながらナマエを眺めるオレの隣には、無表情で幼馴染をじっと見つめる兄ちゃんの姿があった。いつものように笑顔を浮かべているならまだしも、完全に無表情な兄ちゃんからは感情が読み取れない。兄ちゃんは今なにを考えているのだろう。兄ちゃんもナマエの三つ編み姿をかわいいと思っているのだろうか? そんなことを考えていると、兄ちゃんは突然スタスタと歩き出した。

「あっ。兄ちゃん、どこ行くの?」

「………………」

「兄ちゃん!」

 呼びかけるも返事がない。兄ちゃんは無言のままナマエのいるほうへ真っ直ぐ歩いて行った。オレは慌ててその背中を追う。
 ナマエを囲んでいた彼女の友達たちは、近付いてくる兄ちゃんに気付くとギョッと怯えたような表情を見せた。オレたち兄弟はすでにこの辺一帯では不良として名が知れ渡っているので、ナマエの友達たちの反応は当然である。しかし、怯える奴らとは対照的に、当の幼馴染は兄ちゃんが近付いてきたことにまだ気付いていない。

 ナマエの背後に立った兄ちゃんは、またしても無言、無表情のまま、彼女の頭をバシンと叩いた。突然の行動にオレの口からも「えっ」と声が漏れる。周りの奴らもオレと同じような反応をしている。叩かれた彼女をかばうでもなく、その場にいる全員がポカンとした顔で固まったまま兄ちゃんを見ていた。

 叩かれた彼女は頭を押さえ、なにが起こったのか分からない、とでも言いたそうな表情を浮かべて振り向く。そして彼女は兄ちゃんの存在に気付くと、驚きの表情から一転、キッと眉を吊り上げた。

「蘭くん!? なにするの!?」

「なにその髪型。ダッセー」

 兄ちゃんは口角を上げ、バカにするようにそう言った。彼女の抗議の声などまるで意に介していない。兄ちゃんのその発言を受け、彼女の表情が歪む。

「ら、蘭くんには関係ないじゃん!」

「ダセー奴にダセーって言ってなにが悪いンだよ。なぁ竜胆」

「え。いや、オレは……」

「ほらぁー。竜胆もダセーって言ってるぜ?」

 何も言っていないはずなのだが、勝手に同意したことにされている。オレまでナマエをいじめているみたいじゃん、と思ったが、兄ちゃんには抗議しても無駄なことは分かっている。オレは口をつぐんで成り行きを見守ることにした。

「…………ッ!!」

 じわ、とナマエの目に涙が浮かぶ。彼女は顔を真っ赤に染め、泣くまいと必死に耐えているようだ。しかし、その我慢もすぐに終わりを迎えた。ナマエの目頭から一粒の涙が落ちる。その後はダムが決壊したように、幼馴染はボロボロと涙を零し続けた。

「ハハッ! なに泣いてンだよ、事実じゃん」

「うぅ……。ひ、ひどいよ蘭くん……。ひっく、なんで、そんなこと、っ、言うの……」

「ダセー髪型してるオマエが悪いンだろ」

「ぐすっ……ひどい。ひどいよ蘭くん……」

 あーあ、泣いちゃった。ボロボロと涙を零すナマエとは対照的に、兄ちゃんはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。彼女のことをいじめて楽しんでいるのだろう。
 兄ちゃんがナマエをいじめるのは勝手だが、そのせいでオレまで嫌われたらどうしてくれるんだ。オレは彼女のことをいじめたことなんて一度もないのに。むしろ、優しくしてあげたいと思っているのに。兄ちゃんのこういう所が本当に嫌いだ。

「オレがお手本見せてやろっかー? オシャレな三つ編みってヤツを教えてやるよ」

 兄ちゃんがそう言うも、ナマエは「蘭くんなんて知らない!」と叫んで走り去ってしまった。ナマエの友達たちは慌ててその後を追う。オレたち兄弟はその場にポツンと取り残されてしまった。途端に静寂が訪れる。

「せっかくオレがオシャレを教えてやるっつってンのに素直じゃねぇよなー、アイツ。竜胆もそう思わねぇ?」

 兄ちゃんは走り去るナマエの背を見つめながら、やれやれ、とでも言いたそうに両手を上げた。まるで自分が被害者かのような面をしているが、今のは完全に兄ちゃんが悪い。自分がナマエをいじめた自覚はないのだろうか。あれはオレの目から見ても完全にいじめだと思うのだが。

「……兄ちゃん、あんまそういうコトしてっと嫌われるよ」

 兄ちゃんはキョトンと目を丸くさせ、「ハァ? なんでだよ」と言った。

 ◇

 その日以来、兄ちゃんは髪を三つ編みにセットするようになった。オシャレを教えてやるという言葉の通り、兄ちゃんのヘアースタイルはキマっていて格好良い。だが、肝心のナマエにはあれ以来避けられてしまっており、その髪型を褒めてもらえることはなかった。自業自得だ。



蘭が好きな子いじめるタイプだと可愛いな!という妄想です。蘭はいじめるので夢主に嫌われているし竜胆もかばってくれないので嫌われてます




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