重い男



※現パロ


「ナマエ、今日が何の日だか知ってるか?」

 都内のオシャレなレストランでの食事の最中、ふと思い出したように政宗は私にそう尋ねた。私は食んでいた肉を飲み下し、シャンパンでのどを潤してから口を開く。

「私たちが付き合って一か月の記念日でしょ」

「HA! 分かってんじゃねぇか」

 政宗は満足そうに、その整った勝気な顔に笑みを浮かべた。
 流石の私でも、付き合い始めて一か月の記念日くらいは覚えている。学生カップルのように二か月記念日、三か月記念日……なんて細かく祝うのは面倒くさいし馬鹿らしいと思うけれど、流石に一か月であれば忘れはしない。

 そもそも、このデートも一か月記念日を意識してのものだろうなと勘付いてはいた。
 とは言っても、特別な何かをしようという気は私にはさらさらなく、いつもより良い店でご飯を食べて、そのあとはまぁ、セックスして帰るんだろうなと思っていた。大人の付き合いなんてそんなものだろう。

「今日は記念日だからな、ナマエにpresentを持ってきたんだ」

「え、うそ!? 政宗ごめん、私なにも用意してない……」

「No problem、心配すんな。俺が勝手に用意しただけだから」

 そう言って政宗は自分の鞄から手のひらサイズの小さな箱を出す。そしてそれを私に手渡し、政宗は「開けてみな」と不敵な声で言った。

「な、なんか高そうなんだけど……」

「こういうのは気持ちが大事だろ。気にせず開けろって」

 気にするなと言われても、箱の雰囲気からするに中身はアクセサリーっぽい。それもチープなものではなく、ちゃんとした宝石店で買ったものだと思われる。
 お高そうなものを一方的に貰うのはフェアじゃない気がして何となく気持ち悪い。私が気後れしていると、政宗は再度「開けねぇのか?」と催促してきた。
 政宗はじっと私を見ているし、これは腹をくくって開けるしかない。そう思い、しぶしぶ箱を開ける。

「え、なにこれ……」

「綺麗だろ? ナマエに似合うと思ったんだ」

 箱の中に収められていたのは、シンプルなデザインのゴールドの指輪だった。

 え、重い。一か月の記念日で指輪は流石に重い。これが一年記念とか、そうでなくても誕生日とかクリスマスとかだったなら、プレゼントに指輪をもらっても嬉しかっただろう。けれど、一か月記念日は流石に重い。
 しかも二つ入っているし大きさ的に完全にペアリングだ。重い。

「ちゃんと薬指のsizeを買ったんだぜ?」

「え、なんで私のサイズ知ってるの……?」

「ナマエが寝てる間に測ったんだよ。surpriseにしたかったからな」

 薬指は重い。重すぎて引く。むしろ政宗がどうしてそんなに自信満々にドヤ顔をしているのか分からないレベルで引いている。

 薬指サイズの指輪という事は、これはプロポーズなのだろうか? いや、流石に一か月でそれは電撃結婚が過ぎる。あり得ない。
 という事は右手薬指用か? 内縁の夫婦というわけではないのだから、中高生にありがちな結婚ごっこみたいなものか? まさかヤンチャな中高生にありがちな「彼氏おる男の絡みいらん卍」みたいな? いや、流石にそれは邪推しすぎだろうか。

「な、なんで指輪……?」

「Ah? そんなのナマエに悪い虫がつかねぇようにするために決まってんだろ」

 嘘でしょ、そのまさかじゃん。本気で「男の絡みいらん卍」のやつじゃん。
 確かに政宗は雰囲気がちょっと不良っぽい。けれどまさか本気でこういう事をするとは思わなかった。
 いや、むしろ彼はそういうのを馬鹿にするタイプかと思っていた。女の子にモテそうだし、指輪なんてあげて変な勘違いをされるのを心底面倒臭がりそうなタイプに見えるのに。

「こ、こんな指輪とかあげてたら結婚を前提にしたお付き合いだと女の子に勘違いされない……?」

 動揺しすぎて思わず他人事のような言葉が口から出てしまった。けれど政宗はそれを特に気にする様子なく、フッと小さく笑う。

「心配すんな、アンタとの関係は遊びじゃねぇ」

「え? いや……」

「流石に今すぐproposeしろ、なんて言うほどナマエはせっかちじゃねぇだろ? 俺たちのpaceでやっていこうぜ」

 ああッ、話が通じているようで通じていない! これが現代教育の敗北……ッ!
 そんな事を内心で思いながら、顔に笑顔を浮かべて「ありがとう」とお礼の言葉だけは述べておく。政宗はやはり満足そうに微笑んで「気にすんな」と言った。けれど正直な話、あまりの重さに私はかなりドン引きしていた。

 ◇

 後日その話を幼馴染の三成くんにしたら「結婚する気もないのに男と付き合うな」と怒られた。あいつはあいつで頭が固すぎる。私の周りの男はどうしてこうもクセが強いのだろう。悲しくなってきた。


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