キャッキャとマスターは楽しそうにぬいぐるみと戯れている。──何の変哲もない平和な日常。平和である事は別段悪い事ではない。むしろ良い事だと言えるだろう。それに、マスターが楽しいのであればそれに越したことはない。
──だが、最近のマスターの『ソレ』は度が過ぎている。
「……なぁマスター。いい加減そのパンダグッズを集めるのは止めにしねぇか?」
「えっ」
パンダのぬいぐるみから始まり、ハンカチ、小物入れ、メモ帳と、ありとあらゆるマスターの私物は、いつしかパンダモチーフのもので溢れかえってしまっていた。確かにパンダは可愛い。コロコロ丸くて、連れて帰りたくなるくらいに可愛い。だが、マスターの『ソレ』はパンダ好きを通り越してもはやパンダ狂い。どうしてマスターはこんな風になってしまったのか。
じとりとマスターを睨むと、マスターは一瞬目を泳がせたあと、「えっと」とやや恥ずかしそうに口を開く。
「アサシンの『新シン』ってアダ名がパンダみたいだから、どうしてもパンダに惹かれて……」
「──は?」
「いや、むしろパンダを見ているとアサシンを思い出すから、と言うか……」
ぎゅう、とマスターは手にしていたパンダのぬいぐるみを握る腕に力を込める。そして、マスターは顔を上げて俺の目をまっすぐに見つめた。
「パンダのグッズがあるとアサシンが近くにいるような気になるから、どうしても集めたくなっちゃって……。ごめんね」
──照れたような、マスターのへにゃりとした笑顔。
その一瞬で体温が上昇し、全身の毛が逆立つような感覚をおぼえた。心臓は何者かに掴まれたかのように暴れだし、思考が止まる。
やっとの思いで俺の口から出した言葉は、「ハァァ!?」なんていう意味のないものだった。
「は!? なんっ……、は、あ!? なっ、何言ってんだよマスター!?!?」
「……何その反応。アサシン、もしかして照れてる?」
「照れてねェーよ!!」
「顔赤いけど」
「なっ、夏のせいだろ!? ハァーッ、暑いなァーッ!!」
「カルデアの外は吹雪なんだけど……」
「無頼の心はいつだって常夏なんだよ!!」
──何なんだよ、『俺を近くに感じる気がする』って。意味が分からない。何を言っているんだ、この馬鹿マスターは。
俺を思い出すからパンダのグッズを集めるって、それはもうマスターが集めているのは『パンダのグッズ』じゃなくて、むしろ『俺』のほうなんじゃ――……。
「〜〜〜〜ッ!!」
ぶわ、と体温がさらに上昇する。顔面は特に熱が集まっていて、恐らく言い逃れできないほどに俺の顔は赤くなっているのだろう。顔が熱いを通り越して、むしろ恥ずかしくて死にそうなくらいだった。
それを誤魔化すように、マスターの抱いていたパンダを無理やり取り上げる。俺のその行動に、マスターは「あっ」と驚いた声を上げた。
「……パンダのぬいぐるみなんかじゃなくて、本物の俺を抱いていればいいだろ」
俺がそう言うと、マスターも少しだけ頬を赤く染めたあと、またへにゃりと笑った。
「素直に『寂しかった』って言えばいいのに」
「……別に。パンダのぬいぐるみを愛でるより、本物の俺を抱いていたほうがマスターも満足するかと思っただけだよ」
アサシンは素直じゃないなぁ、そう言ってマスターは俺の背にその腕を回す。
このあとめちゃくちゃ構ってもらった。