アサシンの様子がいつもと違う気がする。どこがどう違うのか、と問われればそれは答えづらいのだが、なんとなく距離を感じるような気がする。どこかよそよそしいと言うか、アサシンが私に向ける笑顔が貼り付けた偽物の笑顔のように見える。私はアサシンを怒らせるような何かをしてしまったのだろうか。
 それを問い詰めるため、アサシンをマイルームに呼び出す。渋っていたアサシンを強引に連れてきたせいか、マイルームの椅子に座るアサシンは頬を膨らませ、いかにも「怒っています」と言うような表情を浮かべていた。

「アサシン、何をそんなに怒ってるの?」

「別に」

 そう一言だけ発し、アサシンはツン、とそっぽを向く。私がカルデアに来る前、学生生活を送っていた時代に世間を騒がせた某女優のような、取りつく島のないアサシンのその反応に思わず苦笑が漏れた。
 ──あーあ、これは本格的に怒っているなぁ。

「私、アサシンに何かしちゃった?」

「そういうわけじゃねえよ」

「えー、じゃあなに? いやな事でもあった?」

「…………別に」

「いやな事があったなら何でも言ってよ! 私とアサシンの仲でしょ?」

「ハッ、よく言うよ。マスターと仲が良いのは俺に限った話じゃないんだろ」

「えっ、なにその言い方」

「自分の胸に手ぇ当てて考えてみろよ」

 ふん、とアサシンは吐き捨てるようにそう言った。アサシンのその態度に思わず私も怒りそうになったけれど、ここで腹を立てたらアサシンと余計にこじれるだけだと思い直し、ぐっと堪える。

 冷静に、冷静に。そう思いながら、大きく息を吸う。アサシンが怒っている原因はどうやら私にあるようだ。きっとそれに私自身で気付かなければアサシンの機嫌は治らないだろう。そうは言っても、ここ最近はアサシンとあまり話せていないから原因がイマイチ思い当たらない。うーん、最近はずっと岩窟王と一緒にいたからなぁ。

「──もしかして、私が岩窟王とずっと一緒だったからヤキモチ妬いてたとか?」

「…………妬いて悪いかよ」

 わずかに頬を染めながら、バツが悪そうな様子でアサシンはぼそりと呟いた。

「俺の今の主はマスターしかいねぇけど、アンタにとっちゃ俺は数いるサーヴァントの一人なんだろ。ンな事くらい分かってるよ。そこをどうこう言うつもりはねぇ」

 そう言ったあと、アサシンは目を伏せた。アサシンの長いまつ毛が、彼の白い頬に影を落とす。そして少しの間をおいて、彼は薄い唇を開いた。

「けど、アンタの恋人は俺だろ……。俺を差し置いて他の男とばっかり喋られて、嫉妬しないわけがないだろ」

「アサシン……」

「スマン、格好悪いよな」

 アサシンはそう自嘲気味に笑う。その姿がひどく痛々しく見え、私はアサシンに対してなんてひどい事してしまったのだろう、と後悔した。私だって、きっとアサシンが他の女の子とばかり喋っていたら嫉妬してしまうだろう。それは何も悪い事なんかじゃないし、相手の事が好きなのであればごく自然な事だ。アサシンは悪くないし、むしろ悪いのは私のほうだ。

「ご、ごめんなさいアサシン! 決してアサシンの事を蔑ろにしようと思っていたわけじゃなくて、ただ巌窟王がいろいろ教えてくれたからそっちに頼りきっちゃっただけで……! 本当にごめんなさい!!」

 私がそう言うと、アサシンは「いいんだよ、マスターにとって頼れるサーヴァントが沢山いるのは良い事なんだから」と言った。

 簡単にアサシンに許してもらえるとは思っていないけれど、これは相当にいじけている。そう思い、わずかな焦りが芽生える。どうしたらアサシンの機嫌が治るのだろう。

「巌窟王だけじゃなくてマシュもダ・ヴィンチちゃんも、もちろん王様やダビデだって、みんな頼れる仲間だし! そこに優劣はないけど、私の一番はアサシンだから!」

「ンな事言わなくったっていいよマスター。分かっているさ、俺がマスターの従者の一人だって事くらい」

 うわ、全然分かってくれてない! 完全に拗ねてしまったアサシンを見るのは初めてで、どうしたら良いのかまったく分からない。困り果てた私は、苦し紛れにアサシンの手をがし、と掴んだ。

「私が好きなのはアサシンだけだから! 顔も格好良いし声もいいし性格も最高! 好き! みんなの事は確かに大切だけど、私がキスしたり、その、……するのはアサシンだけだから!! それだけは信じて!」

 私がそう叫ぶと、アサシンは目を丸くして、きょとんとした表情を浮かべて私を見た。
 アサシンのその表情を見て、ハッとする。私、今ものすごく変な事を口走らなかったか? 自分の言い放った言葉を思い出し、かぁ、と顔に熱が集まる。何か言い訳をしようとするものの、何も言葉が浮かばず、「えっと、その」と言うような意味のない言葉ばかりが口から出る。
 そんな私を見たアサシンは、きょとんとした表情から一変、「ふはっ」と声を出して笑いだした。

「マスター、何言ってんだよ。必死すぎてもう何言ってんのか分かんねぇや」

「え、えっと……ただ、私はアサシンが好きで……」

「分かった、分かった。俺だってマスターが好きだよ。拗ねて悪かったな」

 そう言って、アサシンは私の頭を撫でる。

「俺だって従者である以前に男なんだ。俺以外の男ばかりに頼られちゃあ立つ瀬がねえ」

「そ、そうだよね……。ごめん、これからは気を付ける」

「ああ、そうしてもらえると助かるな」

 苦笑しながらそう言ったアサシンは、私を引き寄せてキスをひとつした。突然のキスに驚いて顔をさらに赤く染めた私を見て、アサシンは「今回はそれで許してやるよ」と言って微笑んだ。
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