※真名バレなし


「……私の部屋で何やってんの?」

 ひく、と私の頬が引きつったのが自分でも分かった。誰もいないと思っていた私の部屋に誰かがいた、ただそれだけなら別に何とも思わない事だったのだが、部屋にいたアサシンは我が物顔で私のベッドを占領していた。それも、ご丁寧に布団の中に潜るほどのくつろぎよう。
 頬を引きつらせた私とは対照的に、私の存在を認めたアサシンはぱっ、と表情を輝かせ、「マスター!」と嬉しそうに私の名を呼んだ。

「いやー、実は湯冷めしちゃってさぁ! マスターに温めてもらおうと思って!」

「服着れば良くない?」

「ンだよ冷てぇな!」

「いや、だって半裸で生活してたら寒くない!? ていうかカルデアの外! 吹雪! ここ雪山!! 見ているこっちが寒いんだけど!?」

「……カルデアの中は温かいじゃん」

「そういう問題じゃない!」

 私がそう言うと、アサシンは口を尖らせて「いやでも半裸なのは俺だけじゃねぇし……」と何やらブツブツ言っていた。確かに、ほぼ全裸みたいな格好のサーヴァントや、全身タイツみたいな際どい格好のサーヴァントは数多くいるけれど、今のアサシンの場合、寒いと思うのなら服を着れば良いだけの事だ。半裸で生活する事を選択しておいて「寒いから温めて」なんて言うのは甘え以外の何物でもない。
 ちょっと顔が良いからと、いつでも優しくされるなんてアサシンは思わないほうがいい。そんなだから「黙っていれば色男」なんて言われてしまうのだ。――まぁ、実際にアサシンが色男である事に変わりはないから、彼がカルデアの職員さんたちに可愛がられている事は私だって知っているけれど。

「……職員さんたちに言えば毛布でもパーカーでも持ってきてもらえるでしょ。もらって来たら?」

「……ずいぶん冷たいなァ」

「ほら、早く職員さんの所に行ったらいいじゃん」

「………………」

「………………」

「マスター。…………それは嫉妬か?」

「は、はぁ!? なんでそうなるの!?」

 アサシンの突拍子もない発言に思わず声を荒げる。目を見開いて驚く私をよそに、アサシンは一人で納得したようにうんうんと頷きながら、「はーん、ナルホドそういう事な」と呟いていた。

「か、勝手に納得しないでくれる!?」

「はは、アンタにも可愛い所あるじゃねぇか」

 そして、まるで「この胸に飛び込んで来い」とでも言うようにぱっ、と両腕を開いて見せる。何やってるの、私がそう問うと、アサシンは「だからぁ、温めてくれって言ってんだろ」とニヤニヤとした笑顔を浮かべながら答えた。

「いや、だから職員さんから毛布もらってくればいいんじゃ――……」

「ったく、本当にどうしようもねぇマスターだなぁ! 察しろよ!」

「えっ!? な、なにを――……」

「だーかーらー! 俺はアンタに温めてほしいって言ってんの!」

「……ッ!」

「ほら、分かったら早く来る!」

 アサシンにそう急かされ、おずおずと彼のそばに近寄る。私がベッドのそばまで近付いた所で、アサシンは急に起き上って私に抱き付いた。

「うわぁっ!?」

「ははッ! つーかまーえた!」

 私に抱き付いたアサシンに引っ張られ、彼もろとも布団の上にダイブする。ばふん、と身体が布団に沈み込む音が大きく響いた。

「ちょっ、アサシン!」

「心配しなくったってマスター、俺にはアンタだけだよ」

「…………ッ」

「職員とは別に懇ろな関係なワケじゃねぇし」

「…………うん、知ってるよ」

「なら良し。じゃあ存分に俺の事温めてくれていいんだぜー」

 ぎゅうぎゅうと私の身体を抱き締めながら、アサシンはそう言った。
 私に触れるアサシンの肌は、別に冷たくもなんともない。彼の言った「湯冷めした」という言葉は、私に構ってほしいがための嘘なのだと分かり、思わず笑みがこぼれる。なぁんだ、最近ゆっくりできなくて寂しかったのは私だけじゃなかったんだ。アサシンも、構ってほしかったのなら素直にそう言ってくれたらいいのに。

「……アサシンも案外素直じゃないんだね」

「いやいや、アンタにだけは言われたくねぇなぁ」

 知らない間に職員に妬いてたなんてな、アサシンはそう言って笑った。その言葉に、別に妬いてない、そう返すと、アサシンは本当に素直じゃねぇな、とまた笑った。

「俺はこんなにも一途なんだがなぁ。信じてもらえなくて悲しいね」

「……ごめん」

「ま、いいって事よ。俺がどれだけアンタの事考えているか、ちゃーんと分からせてやるから」

 そう言って、アサシンは鼻先が触れそうなくらいの至近距離で私を見つめ、金緑石のような瞳を三日月型に細めた。吸い込まれそうなほどに綺麗なその瞳に見つめられるだけで、頭がクラクラする。

「俺以上に良い男なんてそう居ないだろ? なぁ、マスター」

「自信過剰じゃない?」

「俺のこういう所も好きなくせに」

「……まぁ、否定はしないけど」

 私がそう言うと、アサシンは「やっと素直になったな」と笑って私にキスをひとつ落とした――。

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