※不夜城のキャスター真名バレ注意




「雑種、話がある。近う寄れ」

「はいはい。何ですか王様」

「何だその態度は。……まぁ良い。耳を貸せ」

 ウルクの王様こと、キャスターのギルガメッシュ。彼はアーチャーのギルガメッシュのような暴君ではない、賢王と呼ぶにふさわしい人物だけれど、その態度の尊大さは変わらない。ふん、と鼻を鳴らして私を呼び留めた彼の言葉に従うように距離を詰めると、彼はぐっ、と私の肩を引き寄せて顔を近付ける。

「今宵、我の部屋へ来い」

 吐息が耳に触れそうな距離で、彼はそう囁いた。

「――えっ?」

 小さく潜められた彼の声は普段よりも低く聞こえる。肩を引き寄せられたせいで密着した身体、それから、ギルガメッシュの囁いた言葉の意味。それらは私の顔を赤く染める要因としては充分すぎるものだった。
 一瞬にして頬に熱が集まり、体温が上昇する。恐らく茹蛸のように真っ赤に染まっているであろう私の顔を見た彼は、ふ、と口角を上げ、「拒否は許さん」と言い残してその場を去っていった。
 ひらりと手を振って遠ざかっていくギルガメッシュの背を眺めながら、私はへたりとその場にしゃがみ込む。――腰が抜けて、とてもじゃないが立っていられない。

「な、何をされるんだ私は……」

 私の口から出たその言葉は、どっ、どっ、とうるさく鳴り響く心臓の音に掻き消されそうだった。夜に部屋に呼ばれるというのは、つまり「そういう意味」、なのだろうか。ほんの少しだけ期待している自分が怖い。
 雑種だ何だと呼ばれているせいで、彼に女として見られている気がしなかったけれど、もしかしてこれは脈ありなのだと思ってもいいのだろうか。完全に私の片思いだと思っていた。――いや、まだそうと決まったわけではない。ないのだが、心は嬉しさに弾んでいた。
 何を着て行ったらいいのだろう、私の頭はもうそんな事でいっぱいだった。



 ***



「遅い」

 空に炯々とした月が浮かんだ夜更け、ギルガメッシュの部屋を訪ねると、彼は開口一番にそう言った。ベッドに寝そべるギルガメッシュの端正な顔は、やや不機嫌そうに歪められている。

「待ちくたびれてもう少しで寝る所だったわ、この阿呆め」

「ご、ごめんなさい……!」

 私がそう謝ると、彼は「まぁ約束を違えなかっただけ良しとするか」と言って横たえていた身体を起こす。ベッドの上に胡坐をかいて座った彼は、こっちへ来い、とでも言うようにベッドの上をポンポンと叩く。

「…………ッ!」

 緊張でごく、と喉が鳴った。――ついに、ついにベッドに呼ばれてしまった! ドキドキと高鳴る胸を押さえて彼に近付く。あまりの緊張で変な歩き方をしていないか心配だったけれど、ギルガメッシュに特に気にした様子はない。恐らく普通に歩けているのだろう、自分では分からないけれど。
 ギルガメッシュのベッドの端に控えめに座り、ちらりと彼のほうへと振り向けば、彼のルビーのような赤く綺麗な瞳と視線がかち合う。どきりと心臓を跳ねさせる私とは対照的に、ギルガメッシュは涼やかな微笑を浮かべた。

「さぁ、何か愉快な話を聞かせてみせろ」

「――えっ?」

「え、ではないわ。貴様を呼んだのはそのためよ」

 自分の想像は少し違う事を言われ、思わず変な声が出てしまった。
 ギルガメッシュいわく、シェヘラザードの話を聞いて寝物語というものに興味を持ったようだ。王の暴虐な行いを止めるために彼女が千夜に渡って語ったと言う寝物語――千夜一夜物語。ギルガメッシュは「奴の人生に同情を抱かぬわけではないが、それとこれとは別の話だ。何か語ってみせよ」と何故か得意げな様子で言った。

 彼が私を呼んだのはただ話が聞きたかっただけで、それ以上でもそれ以下でもない。落胆半分、話し相手に自分を選んでもらえた嬉しさ半分。よく分からない気持ちになった。

「話……話って、何を話せばいいの?」

「退屈せぬものなら何でも良い」

「……こ、この前クーフーリンが――……」

「我の前で他の男の話などするなたわけ!!」

「ひぇっ、ご、ごめんなさい!」

 荒げられたギルガメッシュの声に、びくりと身体が跳ねる。そんな私を見つめていた彼は、私の腕を掴んでぐ、と引っ張った。突然かけられた力に抵抗する術など無く、私の身体は彼もろともベッドに沈む。目の前には薄く筋肉の付いた彼の胸がある。
 ――簡単に言えば、私はギルガメッシュに抱き締められている。
 突然のこの行動に、私の頭は爆発寸前だった。なんで、どうしてこうなった? ぱくぱくと開閉する私の口からは、「あっ、えっ!?」と言ったような意味のない言葉しか出てこない。

「何もせずとも貴様は面白い。普段通りに話を聞かせてみせよ」

「お、王様この体勢は……ッ!?」

「ハッ、何を言う。『寝物語』とは文字通り床に寝てするものだろう」

「で、でも……これは……ッ!」

 私の心臓が耐えられそうにない! 現に私の心臓はどくどくと早鐘を打っている。これほど近かったら、ギルガメッシュに私の鼓動が聞こえてしまうかもしれない。耳元に心臓があるのではないかと錯覚するほど、私の心臓は大きな音を立てている。
 抱き締められているせいで、呼吸をするとギルガメッシュの香りが鼻腔をくすぐった。きっと何か香のようなものを付けているのだろう。肺いっぱいに広がる彼の香りで頭がクラクラする。

 だめだ、本当に耐えられない。私はギルガメッシュ王の色香というものを舐めていた!

 緊張で固まる私を見て、ギルガメッシュはまた小さく笑う。ニヤリ、と効果音が付きそうなくらいに口角を上げ、得意げな表情で彼は私を見つめている。

「興が乗った。貴様がその口から甘い声を上げると言うのなら、愉快な話をせずとも良いぞ」

「ひぇ……ッ! せ、精一杯、楽しい話をさせていただきます!!」

 私には彼に抱き締められるのが限界だ。それ以上は本当に心臓が持たない。
 私の返答を聞いたギルガメッシュは、「そうか。ならば励むが良い」と肩を震わせながら、笑いを堪えきれていない声音でそう言った。

 まだまだ夜は長い。はたして私は無事に朝を迎える事ができるのだろうか。私の心臓が、どうか爆発したりしませんように。
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