※現パロ(?)
※真名バレあり



 軽やかな笛の音、重く響く太鼓のおと。それから聞こえる人々の楽しそうな話し声。仄明るい光を放つちょうちんが道の端に無数に垂れ下がり、立ち並ぶ屋台からは美味しそうなにおいが漂っている。

 ――今夜はお祭り。夏のイベントのひとつ、夏祭りの日だった。

「おーおー、血気盛ん! いいねぇ!!」

 右手を上げ、敬礼のようなポーズを取った燕青は目を輝かせてそう言った。なぁ、どこの屋台から見て回る? そう言った燕青の声は弾んでいて、ひどく楽しそうな様子だった。

 元来お祭り事の好きな男だったのだ、夏祭りでテンションが上がるのは当然と言えるだろう。そう言う私も、非日常を感じられるこの祭りに気分を高揚させていた。

「あ、燕青、餡餅とかあるよ! あれ中国のだよね?」

「ん? ああ、そうだなぁ。俺ァあんま食べた事ねぇけど……」

 じゃあ一丁買ってみるか! そう言って燕青は意気揚々と屋台に向かう。燕青は屋台のおじさんと知り合いだったのだろうか、と思ってしまうほどに楽しそうに喋った後、私の元に戻って来た燕青は手に持った二つの餡餅を得意げに掲げて見せた。

「なぁ見てくれ! 屋台のオッサンが一つおまけしてくれたんだ!」

「えー、すごい! 浪子燕青のアダ名は伊達じゃないね」

「呵々、そんな褒めんなよぉ」

 そう笑ってから、燕青は私に餡餅を差し出した。それを受け取り、どちらともなく歩き出す。餡餅を一口食べると、じゅわりと熱い肉汁が口いっぱいに広がった。美味しい、そう私が呟くと、燕青も「そうだなぁ」と笑顔を浮かべた。

「おっ、射的もいいねぇ! 俺それも得意だからさ、何か欲しいモンあったら遠慮なく言ってくれ。アンタのためなら何でも取ってやるよ!」

 餡餅を二口で食べきった燕青はキョロキョロと立ち並ぶ屋台に目をやり、そのうち目に止まった射的の屋台を見ながら、燕青は私にそう言った。
 せっかく彼がやる気になっているのなら何か取ってもらおう。そう思い、「じゃああのクマのぬいぐるみが欲しい」とねだれば、燕青は「いいよぉ」と言って私の頭を撫でるようにポン、と手を乗せてから屋台のおじさんに「一回やらせて」と握り締めた小銭を渡した。

 コルク栓式の銃を構えた燕青は獲物に狙いを定める。その瞬間、燕青の纏う空気が変わったような気がした。その一件だけで、彼の集中力の高さが伺える。

 タン、と音を立ててコルク銃から弾が発射される。それは見事に命中し、ぬいぐるみを傾かせた。それから燕青は絶え間なくタン、タン、とぬいぐるみにコルク銃を撃ち込んでいく。しかし、全弾命中したものの、ぬいぐるみを落とすまでには至らなかった。ああ、残念。そう思ったのは私だけではなく、燕青も「えぇー」と不満そうな声を上げた。

「なぁオッチャン、このぬいぐるみ重すぎねぇ? ズルしてない?」

「まさか! そんな事してねぇよ!」

「本当かなぁ……。ま、いいや。あと二回分やらせて。銃二丁な」

 そう言ってコルク銃二丁を受け取った燕青はまた狙いを定める。いつの間にか、燕青の射的を見学する人が増えていた。あの人格好良いね、そうコソコソと話す女の子たちの声が聞こえ、少しだけ複雑な気持ちになった。

 タン、タン、タン。燕青は今回もまた全弾命中させ、弾を撃ち切ったコルク銃を捨てるようにしてまた新たな銃を素早く手に取った。そして、息つく暇もないほどの速さで弾をぬいぐるみに撃ち込んでいく。合計九発、コルクの弾を撃ち込まれたぬいぐるみはぐらりと傾く。そして、ぽとりと地面に落ちた。
 その瞬間、燕青の様子を見守っていたギャラリーから、わっ、と歓声が上がる。

「ほらッ! どんなモンだ!」

 少年のように得意げな表情を浮かべ、燕青は屋台のおじさんから受け取ったぬいぐるみを私に渡す。

「ありがとう燕青!」

「いやァ、いいって事よ」

 燕青から受け取ったぬいぐるみをぎゅう、と抱き締める。ぬいぐるみの手触りは良く、柔らかかった。
 背後から、なぁんだ彼女いたんだ、と残念そうな女の子の声が聞こえる。それを聞いて、私はちゃんと燕青の彼女に見えるのか、とほんの少しだけ嬉しくなった。

 声も顔も頭も良く、運動も音楽も、こういった遊びだって、何でもこなすまさに「完璧超人」な燕青と、これといった取り柄のない私とでは釣り合いが取れないのではないか、とよく悩んでいた。燕青を好きな気持ちは本物であるけれど、一度覚えた不安はどうしても拭えなかった。けれど、こうして第三者の目からも私が燕青の彼女に見えたと言うのは、何となく認められたような気がして嬉しかった。それと同時に、ほんの少しだけ優越感というものも芽生えた。

 じっと燕青の顔を見つめていた私を、きょとんとした顔で燕青は見つめ返す。こて、と燕青の首が傾げられ、夜空を溶かしたような燕青の艶やかな黒髪が揺れ動いた。

「ん? どうした、もしかして俺に惚れ直しちゃったかい?」

「……そうだね、惚れちゃったかもね」

「呵々、もっと好きになってくれてもいいんだぜ!」

 燕青はそういたずらっぽく微笑む。それからぬいぐるみを持つ私の手とは逆の手を燕青は掴み、指を絡めた。それはいわゆる恋人繋ぎというもので、燕青の突然の行動に思わず心臓が跳ねる。

「祭りはまだ始まったばっかりだ。何回でも俺に惚れ直してくれ」

 すごい自信だね。私がそう言えば、燕青は「俺のこういう所も好きなんだろ?」と笑った。
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