※エイプリル企画のfgo/goのアサ新くん(リヨアサくん)が出てきます



 小さい手足を困ったようにバタバタと動かしている。そんな抵抗ともいえない抵抗が、ひどく可愛らしく思えた。無力で、非力で、なんの意味も為さない。それがどうしようもなく愛おしい。

「あーんリヨアサくん! 可愛いよぉ……!」

 そう言いながら、バタバタと抵抗を続ける彼に頬ずりをする。すると、やはり彼は困ったように手足を動かした。

 ああ、本当に可愛い。ちゅーしたい。頬ずりだけでも彼はこんなに困っているのだ。ちゅーなんてされたら、それはもう、とてもとても困ってしまうのではないだろうか。

「リヨアサくん……ふふ、ちゅーしよ、ちゅー」

「……ッ!? …………!」

 我ながら気持ちの悪い声が出たと思う。しかし、可愛いものは可愛い。予想通りリヨアサくんは元々下がっていた眉をさらに下げ、声にならない声を上げた。

 本当に、死ぬほど可愛い。

 アサシン(等身大のほう)は身長は他の英霊たちと比べればやや小柄ではあるが、それでも他の彼らに負けず劣らず筋肉が付いていて、とても格好良い。
 そんなアサシンと、この可愛らしいリヨアサくん。見た目は対局とも言えるけれど、どちらも可愛らしい事に変わりはない。まさに両手に花だ。

「リヨアサくんちゅーし――……うわッ!?」

「なぁにやってんだよバカマスター!」

 リヨアサくんにちゅーしようと顔を近付けた瞬間、ぐい、と後ろから襟を引っ張られ、首が絞まった。喉に服が食い込み、潰れた蛙のような声が出る。
 私の襟を引っ張ったのはアサシン、その人だった。

「リヨの俺が困ってんだろぉ、やめてやれよ」

「だっ、だって可愛いんだもん……」

「だもん、じゃねぇよ。やめろって」

「やだ!」

 リヨアサくんをぎゅう、と抱き締める。彼が私の腕の中でパタパタと手足を動かす感触があった。

「見てよこんなに可愛いんだよ!? ちゅーしないなんて無理でしょ!?」

「はぁ? 俺にはそんな事しようとしないくせに何言ってんだよ?」

「えっ」

「リヨばっか構ってさぁ、アンタの可愛い従者が泣いちゃうぞぉ?」

 アサシンの予想外の言葉に思わず目を見開いた。俺にはそんな事しようとしないくせに、だなんて、まるでリヨアサくんに嫉妬でもしているかのような言い草だ。

「えっ、なに……アサシンもしかしてリヨアサくんに嫉妬してるの……?」

「…………そうだよ」

 ぶすっ、と不機嫌そうに頬を膨らませ、アサシンは肯定の言葉を吐いた。

「……マスター、最近俺に冷たくねぇ? リヨの俺ばっか構って、もしかして俺の事いやになった?」

「ま、まさか!」

 アサシンがこうも素直に感情を表に出すとは思わなかった。慌ててアサシンの問いに否定の言葉を返せば、彼は「なら俺の事も構えるだろ」と言って顔を近付けてくる。

「まっ、待ってアサシン! リヨアサくんが見てるから……!」

「……アンタ、俺にリヨとの絡みを散々見せつけてたくせに何言ってんの?」

「そ、それとこれとは別と言うか……」

 一緒だろ、そう言ってアサ新はぐいぐいと距離を詰める。胸に抱き締めていたリヨアサくんは、いつの間にか大人しくなっていた。
 ダメだ、唇が触れ合う。そう思ってぎゅう、と目をつぶった瞬間、アサシンの「おい」と言うくぐもった声が聞こえてきた。

「リヨ、お前なにすんだよ……」

「……! …………ッ!!」

 ぎゅ、と閉じたまぶたを開けると、複雑そうな表情を浮かべるアサシンと、そんなアサシンの口元を小さな手で押さえるリヨアサくんが見えた。

 その姿はまるで、アサシンから私を守ってくれているようで――。

「やっ、やだリヨアサくん可愛いーッ!!」

 こみ上げる想いに耐えきれず、リヨアサくんを抱き締めながら、その小さな身体に頬ずりをする。やはり彼は困ったように身動ぎしたけれど、アサシンの口元を押さえる手は退かさなかった。

「私の事守ってくれたの? ありがとー! 嬉しい! リヨアサくん可愛い!!」

「待て、『守る』ってどういう事だマスター。まるで俺が悪漢みたいじゃないか。……いや、別に間違っちゃいねぇけど」

「リヨアサくん可愛い……!」

「聞けよ」

 何だよソイツばっかり……、とアサシンは小声で呟く。聞こえるか聞こえないか、というような音量だったけれど、私の耳にははっきりと届いた。だって、可愛いアサシンの声を私が聞き漏らすはずがない。

「大丈夫。私、アサシンの事もちゃんと好きだよ」

 拗ねるアサシンの頬にちゅう、と軽く口付けをすれば、彼は「――え?」と目を丸くさせた後、一瞬でその端正な顔を真っ赤に染めた。

「なっ、なん……アンタ、何して……!?」

「何ってちゅーですけど……」

「さっき俺とするの嫌がっただろ!?」

「いや、口と口でちゅーするのは二人きりの時のほうがいいなぁと思って……」

 アサシンは「ハァアア!?」と叫んで、赤い顔をさらに赤く染めた。艶やかな黒髪の隙間から覗く耳まで、綺麗な赤色に染まっている。ああ、本当に、アサシンは可愛い。

「あはは、照れるな照れるな」

「だっ……、て、照れてねぇよ!」

 そう言われても説得力がない。耳まで赤く染めておいて「照れてない」は無理があるだろう。本当に、可愛い。

 ニヤニヤとアサシンを見つめる私の頭を彼はがっ、と掴む。突然の事に身構えられなかったせいで、彼のはめている籠手がダイレクトに頭にぶつかって痛かった。なにするの、そう私が言えば、彼は眉を釣り上げて少し悔しそうな表情を浮かべながらこう言った。

「アンタ後で覚えてろよ……!」

 ふん、と言いながら彼は部屋を出て行った。去り際に「後でイヤって言うくらいちゅーしてやる」と言い残して。

 ――とりあえず、今日はリヨアサくんを抱いて寝たほうが良さそうだな。そう思った。
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