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▼追記 <長谷部くんで吉良吉影パロ>

 ピチャリ、ピチャリと水が断続的に流れる音で目が覚めた。窓の外は暗く、まだこの時間が真夜中であることを示している。部屋のすべてを見渡すことができないくらいの暗闇、響く水音。私に恐怖心を与えるには十分だった。クーラーのタイマーの切れたこの部屋は生暖かい空気に包まれていているのにもかかわらず、私の背中にはつう、と冷や汗が流れ、肌はぶわりと粟立った。
 恐怖心を紛らわせるために自分の寝ているベッドの下に手をやる。そこにはペットの犬が寝ていて、こうして手をやればいつもペロペロと舐めてくれていた。ベッドの下へ手を差し入れ、左右にゆっくりと振る。そうすればべろりと舐められる感触がしてほっとした。ああ、良かった私はひとりじゃない。この子がついていてくれている。
 その事実に安心した私はその水音の正体を確かめようとベッドから足を降ろす。降ろした足を何者かに掴まれ、心臓が飛び出してしまったのではないかと思うほどの衝撃を受けた。どっと汗が噴き出して、心臓は耳元にあるのではないかと錯覚するほどにうるさく鳴っている。
 私の足を掴んでいるのは誰? 先ほど私の手を舐めたのは何? いつもベッドの下に寝ていた愛犬は?
 恐怖と疑問が次々と浮かんでは消え、私は一言も言葉を発することができなかった。心臓の音と、断続的に流れる水音以外は何も聞こえない。その静寂を破ったのは男の声だった。

「主の手、すべすべしていて気持ちが良いですね」

 ベッドの下からずるりと這い出てきた男には見覚えがあったような気がした。濃紫色のカソックを身に纏う男の藤色の目は、暗闇の中であるにもかかわらず炯炯としていた。

「さあ主、早く俺たちの本丸に帰りましょう。心配しなくても、あなたのご両親と犬は始末しておきましたから。これで心置きなくこちらに居られますね」

 伸ばされた男の手を避けられるほど私の頭は正常に働かなかった。男に抱きすくめられたところで先ほどの言葉の意味と断続的に流れるこの水音の正体を理解して、私は意識を手放した。
2015/07/20 15:28
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