どんな鬼であれこの浪子燕青を殺す事能わず! そう言って大量の酒樽を抱えた燕青が酒呑童子の部屋へと向かって早五時間。シンと静まり返った部屋を覗くと、そこには地獄が広がっていた。
 嵐が過ぎ去ったかのように荒れた部屋。むせ返るようなアルコールの匂い。床の上には、燕青、荊軻、小次郎などの酒飲みサーヴァントが数名転がっていた。
 そんな死屍累々の中、一人涼しい顔をしていた酒呑童子は、部屋を覗く私に気付いてその可愛らしい目をにんまりと細めた。
「どないしたんマスター? もしかして、片付けしに来てくれはったんかな?」
「え、これ私が片付けるの?」
「あんたはんの旦那が元凶やさかい、ウチに喰われるのが嫌やったらするしかあらへんよ」
 えらい男を旦那にしてもうたなぁ、そう言って笑った酒呑童子は、ポンと私の肩を叩き、軽い足取りで部屋を出た。――いや、私にこれをどうしろと。

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