海のまぼろし
 浜辺はまべに立たって、沖おきの方ほうを見みながら、いつも口笛くちぶえを吹ふいている若者わかものがありました。風かぜは、その音ねを消けし、青あおい、青あおい、ガラスのような空そらには、白しろいかもめが飛とんでいました。
 ここに、また二人ふたりの娘むすめがあって、一人ひとりの娘むすめは、内気うちきで思おもったことも、口くちに出だしていわず、悲かなしいときも、目めにいっぱい涙なみだをためて、うつむいているというふうでありましたから、心こころで慕したっていた若者わかもののいうことは、なんでもきいたのであります。
「その指ゆびにはめている、指輪ゆびわをくれない?」と、あるとき、若者わかものがいいました。
 彼女かのじょは、ほんとうに、若者わかものが、自分じぶんを愛あいしているので、そういったのだろうと思おもって、指ゆびにはめている指輪ゆびわをぬいてやりました。それは、死しんだお母かあさんからもらった、だいじにしていたものです。
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