悪夢よ、私の安息を乱さないでくれ。
闇の力よ、私を悩まさないでくれ。

 印度という国が英国よりも優越している二、三の点のうちで、非常に顔が広くなるということも、その一つである。いやしくも男子である以上、印度のある地方に五年間公務に就いていれば、直接または間接に二、三百人の印度人の文官と、十一、二の中隊や連隊全部の人たちと、いろいろの在野人士の千五百人ぐらいには知られるし、さらに十年間のうちには彼の顔は二倍以上の人たちに知られ、二十年ごろになると印度帝国内の英国人のほとんど全部を知るか、あるいは少なくとも彼らについてなんらかを知るようになり、そうして、どこへ行ってもホテル代を払わずに旅行が出来るようになるであろう。
 款待かんたいを受けることを当然と心得ている世界漫遊者も、わたしの記憶しているだけでは、だいぶ遠慮がちになってきてはいるが、それでも今日こんにちなお、諸君が知識階級に属していて、礼儀を知らない無頼ぶらいの徒でないかぎりは、すべての家庭は諸君のために門戸をひらいて、非常に親切に面倒を見てくれるのである。
 今から約十五年ほど前に、カマルザのリッケットという男がクマーオンのポルダー家に滞在したことがあったが、ほんの二晩ばかり厄介になるつもりでいたところ、リューマチ性の熱が因もとで六週間もポルダー邸を混乱させ、ポルダーの仕事を中止させ、ポルダーの寝室でほとんど死ぬほどに苦しんだ。ポルダーはまるでリッケットの奴隷にでもなったように尽力してやった上に、今もって毎年リッケットの子供たちに贈り物や玩具おもちゃの箱を送っている。そんなことはどこでもみな同様である。諸君に対して、お前は能なしの驢馬ろばだという考えを、別に隠そうともしないようなあけっ放しの男や、諸君の性格を傷つけたり、諸君の細君の娯楽を思い違いするような女は、かえって諸君が病気にかかったり、または非常な心配事に出逢ったりする場合には、骨身を惜しまずに尽くしてくれるものである。

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