高架下は雪の降る

 帝国軍第X軍団がエオルゼアに実質亡命したことで、私たちイルサバード派遣団の活動は、漸く本格的に動き出すことになった。帝国軍のテンパード化を解除する治療は滞りなく終わり、次為すべきことは、弱っている人、怪我をしている人を優先して安全な場所で保護することだった。
 エオルゼアの英雄から、テルティウム駅にそうした住民が多くいると聞いた私は、アルフィノとアリゼーの無事を確認するためにも、早速一緒に行動することにした。
 そして、忘れてはならない。呆然としているユルスを放っておくわけにもいかず、私は英雄と顔を見合わせれば、彼に声を掛けた。

「ユルス、一緒に行こう」

 私の声に顔を上げたユルスは、今までの威勢の良さは何処へやら、ひどく弱々しく見えた。それは当然のことだと思うし、極力彼を傷付けない振る舞いをしなくてはならない。とはいえ、庇護するような態度は駄目だ。彼はれっきとした軍人で、私たちと対峙した時の物言いからも、ガレアン族としてのプライドもあるだろう。私は言葉を選びつつ、それとなく告げた。

「まずは第I軍団の人たちと合流して、今後のことについて話し合ったほうが良いんじゃない?」
「……ああ、そうだな……」

 少し正気を取り戻したようで、ユルスは辛うじて頷いてみせた。
 会話が出来るなら充分だ。安心しつつ、早速三人でテルティウム駅への道を辿ることとなった。そこで残酷な現実が待っているとは、夢にも思わずに。



「アルフィノ! アリゼー!」

 廃線らしき線路を辿った先にあった建造物の前で人だかりを見つけて、私は大声でふたりに声を掛けた。ふたりを助けた暁の血盟の皆だけでなく、帝国軍の人も一緒にいるようだ。第X軍団の降伏で一気に戦意を喪失したにしては、和解が早すぎるような気もするのだけれど。
 私が抱いた違和感は、最悪の形で的中した。
 私たちに気付いたアリゼーはいつもの明るさはなく、動揺を露わにしていた。

「大変なの……。私たち、さっきここに着いたんだけど、そしたら……クイントゥスさんが……」

 明らかに只事ではない。見ればアリゼーだけでなく、ここにいる皆が神妙な面持ちだ。

「クイントゥス様が、どうかしたのか……?」

 恐る恐る問うユルスに答えたのは、アリゼーではなく、第I軍団の軍人だった。

「……自害なされたんだ」

 その言葉に、思わず悲鳴を上げそうになって、咄嗟に口を押さえてしまった。
 動揺しているのは第I軍団の人たちも同じ――というより、私たちよりも遥かにそうだ。現実を受け入れることが出来ず、呆然とした様子で事の顛末をたどたどしく説明する。

「第X軍団の顛末を聞いて、保護を受け入れたあと……部下たちに下がるよう命じ、おひとりになったところで……」
「そ、んな……嘘だろ……」

 愕然とするユルスに、私は何も言えなかった。私だけじゃない、アリゼーも、アルフィノも、エオルゼアの英雄も、皆同じだった。
 軍人として誇り高く生きて来た人が、自軍の敗北を受け入れられず自害することは昔からある話で、歴史書からもそれは明らかだ。
 でも、それでも。残された人たちの気持ちを思うと、自ら命を絶って逃げるなんて無責任だ。ユルスをはじめとする部下は、信じていた軍団長にこんな死に方をされて、これからどんな気持ちで生きていけというのか。

 生きて罪を償おうとしている、フォルドラという人を知っている私には、軍団長クイントゥスの死に方は、逃げだと思えて仕方がなかった。

「……遺体はサンクレッドたちが確認し、第I軍団の方の手をお借りして、運び出しました」

 心神喪失状態と言っても過言ではない帝国軍の代わりに、ウリエンジェが現状を説明してくれた。

「駅の中には、幼子たちもいる様子……。遺体をそのままにしておけないと、そちらの方々が、協力してくださったのです」

 ウリエンジェはそう言うと、第I軍団の軍人たちに目を向けた。そのうちのひとりが、悲痛な面持ちで呟いた。

「あの方は、最期にこう仰ったそうだ。『生きたくば生きよ。皆にも、そう伝えるがよい』……って」
「クイントゥス様……あなたは……ッ!」

 身体を震わせて拳を握るユルスは、怒りとも悲しみとも取れる声を漏らしていた。

 時間が必要だ。
 軍団長亡き今、第I軍団や治療を受けた他の軍団の人たちが、これからの帝国を支えていく必要がある。
 でも、今それを強いるのは酷だ。代わりに私たちイルサバード派遣団が、民衆の暮らしを守る必要がある。
 そう思っているのは暁の血盟も同じで、グ・ラハ・ティアがタイミングを見計らって皆に声を掛けた。

「入れ違いになったみたいだが、今しがた、ルキアにも連絡を入れたんだ。派遣団としては、テルティウム駅に遺された人たちが望むなら、予定通りに受け入れを行うつもりだそうだ」

 絶対にそうするだろうとは思ったけれど、しっかりと言葉にして貰えると安心する。実際、ここにいる第I軍団の人たちも心なしかほっとしているように見える。それを肯定するように、帝国軍のひとりが訴えた。

「知っての通り、ここには怪我人が多い。そうでなくとも、みんな弱ってる……。すぐには気持ちの整理をつけられない奴もいるだろうが、本当は助かりたいって……生きたいって思ってる奴のこと、どうか……!」

 エオルゼアの英雄をはじめ、誰もが彼の涙ながらの訴えに頷いた。元々そのつもりで遠路遥々ガレマルドまで来たのだから、絶対に帝国の皆を助けてみせる。
 皆それぞれ想いがある中、最初に行動を起こそうとしたのはアリゼーだった。

「……行きましょう。皆で、テルティウム駅の人ひとりひとりに、どうしたいか意思を聞くの。ここに残りたいって人には、ひとまず必要なものを持ってくる。キャンプに向かう人たちは、必ず無事に送り届けましょう」

 アリゼーもアルフィノも、ただ監禁されていたわけではなく、この駅構内で避難生活を送っている人たちと向き合い、自分たちには何を出来るのかしっかり考えていたのだと、その言葉で気付かされた。
 私は皆をキャンプ・ブロークングラスに避難させることしか考えていなかったけれど、余所者、それも敵国の言うことを聞くなんて出来ない人だっているのだ。そういう人たちに自分たちの正義を押し付けるのではなく、出来る限り彼らに寄り添ってあげる、そんなアリゼーの提案に、私は敬意の念を抱いた。相手を尊敬するのに、年齢なんて関係ない。

 各々が駅の中へ向かいはじめる中、ユルスだけはその場から動かなかった。

「俺は……」

 私も皆の手伝いをしたいところだけれど、今のユルスを放っておくのは、違う気がした。
 今この瞬間も、しんしんと雪が降り積もっている。このまま外で突っ立っていたら風邪を引いてしまうし、今体調を崩せば、きっと心も引きずられてしまうに違いない。ガレマルドで生まれ育った人にとって、この寒さはどうってことないのかも知れないけれど、お節介ながらも声を掛けることにした。

「風邪ひいちゃうよ。中、入ろ」
「…………」
「今ユルスに倒れられたら、皆心配するよ」

 反応はない。こうなったら強引に駅の中に引き入れるべきか。そう思ってユルスの手を掴むと、漸く顔を上げてくれた。
 てっきりまた蛮族とか言われて手を払われると思ったけれど、さすがにそんな気力はないらしい。

「こんな所で倒れるわけないだろ」
「そ、そっか。ごめんね」
「……でも」

 やっぱり余計なお世話だったと、慌てて手を離そうとした瞬間、ユルスは小さく笑みを浮かべた……気がした。

「お前、鼻の頭真っ赤だぞ。風邪を引くのはどちらだか」
「なっ……!」

 咄嗟に手を離して、自分の鼻を両手で隠してしまった。
 改めて見れば、ユルスは力なく笑みを零している。当然無理はしているのだろうけれど、私を小馬鹿にする元気はあるらしい。

「失礼だよ! それに『お前』じゃない、私にはク・ラルカっていう名前があるんだから!」

 つい声を荒げてしまったけれど、こんなくだらないことで言い争いをするつもりはない。ユルスの言う通り私は寒くて仕方がないし、改めて彼の手を取れば、強引に引っ張って駅の中へと突き進むことにした。
 ユルスに背を向けている私は、この時彼が優しい表情をしていたとは知らなかった。



 初めて足を踏み入れたテルティウム駅は、暗くて冷たくて、とてもではないけれど長く住める場所ではないと感じた。皆で手分けしてひとりひとりに要望を聞いていくと、キャンプ・ブロークングラスに行くことを選んでくれたのは想定よりも少なく、ここに残る人のほうが多かった。実際にこのテルティウム駅で、怪我をして動けない人や、幼い子どもやお年寄りを目の当たりにして、彼らに移動を強いるのは酷だと理解した。支援物資を受け取ってくれるだけでも御の字だ。

 思っていた以上に、帝国の人たちは心身ともに弱っていた。いくらアラミゴの民を傷付けた国といっても、戦う術を持たない民に罪はないのだと、改めて気付かされた。
 アラミゴにずっといたら、絶対に気付けなかったことだ。リセが誘ってくれなかったら、敵国への人道支援なんてよくやるものだと内心呆れていたかも知れない。
 暁の血盟は、何食わぬ顔で途方もないことをやっていると思わずにはいられなかった。私たちアラミゴの民に手を差し伸べたのと同じように、何度も戦ったガレマール帝国の民を救うなんて、彼らがいなかったら成し得なかったことだ。



 住民の避難や物資の運搬で拠点を行き来していたら、時間はあっという間に過ぎて、キャンプ・ブロークングラスへの移動を希望している人を全員連れて来た頃には、夜はとうに更けていた。
 帰路もユルスと偶然一緒になったのだけれど、正直会話する気力もなく、互いに無言でぼうっとしていると、アリゼーが駆け付けて来た。

「お帰り、ラルカ。ユルスもこっちに来たのね」
「ああ……」

 私の横でユルスは力なくぽつりと呟いた。今日一日で、彼にとってあまりにも多くのことが起こったのだから、無理もない。軍団長の死を受け入れるまで時間が掛かる、というより、受け入れられないかも知れない。さすがにそこまで私たちが介入することは出来ないし、時の流れに任せながら、私たちは引き続きやるべきことをやるしかない。

「ラルカ、疲れたでしょ。頑張ったわね」
「へへっ」
「いや、そこはお姉さんらしくしなさいよね……」

 アリゼーに褒められたのが純粋に嬉しかったのだけれど、呆れられてしまった。私のほうが年上とはいえ、アリゼーのほうが余程しっかりしているのは、誰しも認めるところだと思うけれど、さすがに甘え過ぎてしまったか。
 ほっとしたせいか、良い香りが漂っていることに気付いて、私のお腹は馬鹿正直に情けない音色を奏でてしまった。

「……さすがにお腹空いた」
「分かってるわよ、皆同じだから。奥で炊き出しやってるから、ふたりとも行くといいわ」
「本当? やったあ」

 飛び跳ねて喜びたいところだけれど、さすがにこれ以上呆れられてはなるまいと、言葉だけに留めておくことにした。

「ユルス、行こう。たくさん食べて、今夜はゆっくりしよう」
「……ああ」

 ユルスもそんな気になれないのは分かるけれど、食べなければ身体も心も弱る一方だ。無理にでも食べて貰おうと、私はまたユルスの手を引いて歩いていく。
 あちこちにストーブが設置されたおかげで、夜だというのに寒さは感じられない。歩いていると、エマネランとシカルドの姿が視界に入って、咄嗟に手を振った。

「エマネラン! シカルド!」
「ク・ラルカちゃん、お帰り〜! 寒かっただろ、さ、オレと一緒にあっちに……」
「だからナンパしてんじゃねぇよ!」

 早速ふたりの喧嘩が始まって、相変わらずだと苦笑を零したけれど、ユルスは呆れていないだろうか。振り向くと、ユルスは大きな目を輝かせているように見えた。ストーブの火に照らされてそう見えるだけだろうか。

「あったかい……」

 ユルスは、間違いなくそう呟いた。あのテルティウム駅にずっといたから、そう感じるのだろうか。とはいえ、今は向こうもサンクレッドがストーブや食糧を運んでくれたから、だいぶ快適になったはずだ。
 ユルスの言葉に反応したのは、私だけではなかった。エマネランが屈託のない笑みでユルスに声を掛ける。

「おおっ、そうだろそうだろ!? なんてったって、うちの機工士たちが造ったんだ。思う存分、あったまっていけよな!」
「ちょっと待て。確かにイシュガルドで使われてるやつの図案はもらった。だが、創ったのはうちの職人連中だっただろうが」

 案の定シカルドが噛み付いて来て、エマネランはユルスに向けていた愛想の良い笑みを消して、早速シカルドに言い返す。

「細かい奴……。まあいいけどな、うちは室内もぽっかぽかにしましたし?」
「あぁ……? それも手ェ貸しただろうが。頭までぽかぽかか?」
「なんだよ偉そうに! っていうか、お前が創ったわけじゃないだろ海賊!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよボンクラ貴族!」

 また始まってしまった。いい加減お腹も空いているし、早く炊き出しにありつきたい。

「ユルス、行こっか」
「……あのふたりはいいのか?」
「いつものことだから、放っておいて」

 そして、ユルスと一緒に再び歩を進めていく。エマネランの愛想の良さは帝国の人たちの心を開くことが出来ると思っているし、シカルドも仏頂面なことが多いけれど、たくさんの人から慕われる信頼できる人だと、この地でよく分かった。
 ユルスもきっと、皆と打ち解けられるはずだ。今はそう信じたい。

「――あ、やってるやってる!」

 鍋から湯気が立っているのを見つけて、やっと炊き出しにありつける嬉しさに、つい子どもじみた声を出してしまった。
 私の声がしっかりと届いたのか、イルサバード派遣団のひとりが私たちを見て、すぐに動いてくれた。私たちが出向くよりも先に、食事を用意してくれている。
 その人は、かつてアラミゴにいた帝国軍人だった。いわゆる『属州兵』――フォルドラと同じように、生きるためにその道を選んだ人だ。かつて解放軍と敵対する立場だったけれど、アラミゴが解放された今は、こうして手を取り合っている。

「ク・ラルカ。お疲れさん」
「わあ、ありがとうございます! もうお腹ぺっこぺこ!」

 差し出されたスープを有り難く受け取ろうとした瞬間、そういえばユルスとずっと手を繋いだままだったと気付いて、今更ながら手を離した。だいぶお節介なことをしてしまっていた。ユルスが気にしていなければ良いのだけれど、きっと、今はそんな余裕もないだろう。
 スープを受け取ると、その人の手にはちゃんとユルスの分もあることに気が付いた。
 彼は勿論、ユルスに向かってスープを差し出した。

「……ん。お前も食え、悪いものは入ってない」

 ユルスは恐る恐るスープを受け取って、呆然とそれを眺めていた。別に敵国の人間が出したものを口にしたくないというわけではないだろう。ただ、困惑しているのだと思う。
 それを察してか、その人はユルスに向かって告げた。

「俺はアラミゴから来たが、つい最近まで『帝国兵』だった。ガレアンの上官と、いつも同じメシを食ってた」

 その言葉にユルスははっと目を見開いた。種族は違えど、同じ帝国軍人だということに、ユルスは何を感じたのだろう。そして食べるのを後押しするように、エオルゼアから来た派遣団の人たちが次々に声を掛ける。

「アジムステップ風の温まるスープらしいよ。あたしも初めて食ったけど、案外うまいね」
「少し、味が濃すぎる気もするがな……」
「あー、あんたのとこと比べると……ね?」

 私もスープの中身を見遣る。確かにアラミゴやザナラーンでは嗅いだことのない香りだ。早速口をつけてみると、濃い味付けが、一気に疲れを癒してくれるように感じる。

「……ん、おいしい! ユルスも食べてみなよ、あったまるよ」

 ユルスは未だ心ここに在らずといった様子で、スープを口に含む。
 その口から感想が語られることはなかった。
 でも、その顔を見れば、何も聞かずとも分かる。

 徐々にユルスの双眸に涙が浮かぶ。
 それはスープが美味しいからだけじゃない。帝国軍が崩壊しつつあり、未来が見えない中、多くの人のあたたかさに触れたからだろう。

「……生きてて良かったな」

 元帝国兵の彼がそう声を掛けると、ユルスは嗚咽を漏らして泣きはじめた。
 ……ずっと堪え続けて来たのだろう。帝国軍の皆を、軍団長を信じて、テロフォロイから魔導城を奪い返すために頑張って来たのに、いとも簡単に崩れてしまい、上官をあんな形で喪ったのだ。泣いて、感情を露わにして当たり前だ。
 お節介だとは思いつつも、私はユルスの背を撫でた。

「これからのことはさ、皆で話し合って考えていこう。皆でテロフォロイを倒して、魔導城を取り返して……そうすれば――」

 闇が払われたガレマール帝国が、エオルゼアと友好的な関係を結ぶことが出来れば、世界はより良い方向へ一気に変わるだろう。
 そう思った瞬間、突然ノイズ交じりの声が響き渡った。

『我こそ……ガレマール……皇帝……ヴァリス……ガル……ス……』

 それは、帝国の一部の民が所持している『ラジオ』なる機器から放たれていた。
 避難民や救出した兵士が持っていたそれに、護符と同じ物質が使われているらしく、ラジオを手元に持っていた人はテンパード化から逃れることが出来たのだという。
 なんでも、ラジオから皇帝陛下の演説が流れて来て、それを聞いた民はヴァリス・ゾス・ガルヴァスの生存を信じていたとか――。

「皇帝、陛下……?」

 そうぽつりと呟いたユルスに、私は何かがおかしいと察した。
 皇帝陛下は暗殺された。だから後継者争いで帝都ガレマルドでは内戦が起こっていたのだ。ヴァリス帝が生きていれば、テロフォロイ――アシエン・ファダニエルと皇太子ゼノス・イェー・ガルヴァスの横暴を放置するわけがない。
 冷静に考えればそう分かるのだけれど、弱り切った帝国の民にとっては、ヴァリス帝の生存は希望そのものなのだろう。
 でも、ユルスは違う。テンパードにもなっていないし、軍人として冷静に動いて来たはずだ。

「ユルス、どうしたの?」

 ユルスの手から、飲みかけのスープが入った器が落ちる。
 刹那、ウリエンジェが大声で叫んだ。

「エーテル放射です! いけません、すぐに彼らの保護を……!」

 気付いた時にはもう遅かった。
 保護した帝国の人たちが、蹲って倒れていく。目の前のユルスも、突然頭を抱えながら苦しみ出して、何が起こったのか一瞬理解出来なかった。

「ユルス! 大丈夫!? しっかりして!!」

 必死でその身体に手を伸ばしたものの、もう手遅れだった。
 エーテル放射――魔導城から放たれたそれは、帝国の民を次々と精神汚染していく。
 与えられた護符で身を守られている私は、ただただ苦しむユルスを抱き締めることしか出来なかった。

2024/08/04

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