宗次郎は気付いているのか。
私が宗次郎を遠ざけていることに。
彼に惹かれてる自分に気付いた時、このままではいけないと思った。
わからないけど、いけないと思った。
宗次郎は16歳。
私は21歳。
この5歳の差を気にするのは女性として当たり前なことだと思う。
5年は短いようで、とても長いから。

だから、宗次郎にはそっけなく接してきた。
でも彼はそんなの気にしてないように、というか気付いてもいないように
そして当たり前のように私の隣にいる。

ああそうか、きっと彼は私のことなんて意識してないから。
何とも思ってないからこうやって傍に来るのか。
そう思ってしまえば楽だね。
でもなんでこんなに切ないんだろう。




「名無しさーん」

「ん?」

「はい、これどうぞ」




差し出された簪。
優しく微笑む宗次郎と手の中のそれとを交互に見つめる。
ずっと握っていたのか、簪には宗次郎の温もりが残っていた。




「名無しさんの簪、少し前に折れちゃったでしょ?」

「え、」

「だからね、僕……名無しさん?」




なんで折れたこと知ってるの?
なんでそんな風に笑えるの?
なんで、私なんかのために。
お願い止めて、もっと好きになっちゃうよ。




「いらない」




本当に可愛くない私。
無理やりに簪を宗次郎に突き出すと彼は一瞬、とても切なそうな顔をした。
ごめん…。
彼に背を向けて歩き出す。
これでいい。
これで彼は私に嫌われていると思うはず。
そうすればきっともう。




「この簪っ、」




ぐいと腕を引っ張られる。
私は振り返るしかなくて。




「あなたに似合うと思ったんです」

「…え」

「いらなくても受け取ってください」




宗次郎の手が伸びる。
その手は私の髪に触れた。
そして優しい手つきで簪は私の髪に埋められた。
私はそんな彼を見上げる。
こんなに身長差、あったんだ。
気付かなかった。




「うん、よく似合います」

「…」




ふわりと微笑む宗次郎になんだか泣きそうになった。
彼は踵を返して廊下を歩き出す。
揺れる髪も袴も、やっぱり好き。
どうしようもない。
私は宗次郎が好きだよ。




「そ、宗次郎っ」

「?…なんです?」




振り返る彼は笑っていた。




「簪っ…ありがとう」

「どういたしまして」

「すごく…可愛い…大事にするね」

「ええ、気に入ってもらえてうれしいです」




やっぱり君は、とても魅力的なの。









明日からは真っ直ぐに彼を見つめよう








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