「本当にいりますか?」
「なに言ってるんです。あなたからもらわなきゃバレンタインなんて意味ないんですよ」
紙袋を二つも抱えた瀬田くんを見たら、私のこんな貧相なチョコを渡す勇気がなくなってしまって。
そういうわけで、渡さないでおこうと決心して図書当番にやってきた。
でも、本棚の整理をしていたらいきなり瀬田くんが現れ、チョコを催促してきた。
そして現在に至る。
「恋人なんですから、僕ら」
「そう、なんですけど‥‥」
「鞄のなかにあるんでしょ?」
にこりと笑う瀬田くんから逃れる術はないことを察し、私は鞄から取り出した箱をおずおずと差し出した。
瀬田くんが持っている大量のチョコが嫌でも目に入ってしまい、この箱の中身が泥団子とかになってしまえばいっそ楽なのに、とか思った。
あっさりと彼の手に渡ったそれは、丁寧にラッピングを解かれ蓋が開けられた。
中身は残念ながら、昨晩見たのと変わりはなくて。
律儀に、いただきますと呟いた瀬田くんはチョコを口に運んだ。
「‥‥どうですか?」
「ええ、ほっぺたが落ちるくらい美味しいですよ。ただ、」
「ただ?」
「もう少し甘い方が僕は好きだな」
ブラックチョコを使いすぎたことを悔いた。
「‥‥ごめんなさい」
「別に構いませんよ。甘さは補えばいいわけですし」
ふいに塞がれた唇。香るチョコレート。
「ごちそうさま」
来年は甘くしてくださいね、そう言って彼はまた私の唇を塞ぐのだった。
ばれんたいんでえええ