※全然甘くないです










ストーブを焚いているとはいえ、この冬の寒さに耐えられなかったのだろう。
担任が教室の雰囲気を明るくしようと置いた窓際の花瓶の花は萎れていた。
時計の針は17時を指す。
帰ってしまおうかと何度も思ったが、生憎僕は約束を破るなんてことはしたくないからね。
机の横に置いておいた紙袋からは、溢れんばかりに、飾り立てられた箱や袋が顔を覗かせている。



「瀬田くん、ごめんなさい」



扉が開くと同時にやっと現れた、僕を呼び出したひと。
委員会の仕事が長引いちゃって‥‥と申し訳なさそうな顔をしながら僕に近付いてくる姿はなんて滑稽なんだろう。
彼女が僕を呼び出した理由なんて百も承知。
そうだ、最後の人くらい、ちょっと虐めてあげてもいいんじゃないかな。
今日は1日しょうもないイベントで疲れちゃったからね。


「それで、僕に用ってなんです?」


次に彼女は僕の笑みで頬を紅潮させ、背中に隠し持っていた例のものを出すんだ。
ああ、ほらやっぱり。僕の予想はあたったようだ。
差し出されたそれには可愛らしくリボンが巻かれていた。
わあ、とか言って驚いてみせる。



「これ僕にくれるんですか?」

「うん‥‥美味しくないかもしれないけど‥‥」

「ありがとうございます!」



彼女の手からそれを受けとる。
まだだ。



「これは、義理‥‥ですかね?」

「えっ、あの‥‥ほ、本命、です」

「わ、ほんとですか?嬉しいなあ」



そう言えば彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。
でもその唇は嬉しさで弧を描いている。


「まさか名無しさんからもらえるなんてなあ、なんか感激しちゃうな」

「そんなっ‥‥」

「僕も名無しさんのこと、好きですよ」

「え、ほんとですか‥‥!?」



顔を上げた彼女の目はやはり輝いていた。
嘘に決まっているのに。
手の力を軽く抜けば、僕への愛やら何やら、重たい感情の詰まっているであろう箱は軽い音を立てて床に落ちた。
あ、と彼女はそれを拾おうと腰を屈めた。
ふふ、と笑って僕はそれを踏み潰した。



「好きなんて言葉、本気で僕が言うとでも?」

「‥‥っ」

「恋心なんてものは、いつかは萎れてしまうんですよ」



足をどかせばすっかり平らになった無惨な箱が姿を現した。
こんなもんですよ。愛なんて。
その他大勢からもらったチョコはせっかくだから食べようかな。食べきれなければ捨てればいい。
鞄を持って扉へ向かい、振り返る。
床に座り込んだ彼女は窓際の萎れた花を見つめていた。







ぶらっくばれんたいんでー








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