「とりっく、おあ、とりーと!」

「…はい?」




扉を勢いよく開け布団を被った名無しさんが部屋に押し入ってきた。
何事かと思って聞けば
今日は志々雄さん曰く、外国では「はろうぃん」と呼ばれる行事が行なわれているらしい。
仮装してお決まりの言葉を言って、お菓子を貰うかいたずらするとか。
名無しさんが聞いたのは今朝だったらしく手頃な仮装道具もなく
布団をかぶって一応おばけということで無理矢理良しとしたみたい。




「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」

「悪戯ですか」

「ほらほらお菓子か悪戯か!」

「お菓子はないんですよ、てことは悪戯されるんですか?僕」

「はははは、私が悪戯してあげましょう」

「悪戯って草履に針を仕込んだり、味噌汁に虫を入れたりするんですか?」

「……なんでそんな陰湿ないじめを考えるんですか」

「違うんですか?」

「違いますよ!」




そうなるとどういう悪戯か気になる。




「じゃあどうぞ、悪戯してください」




そういうと名無しさんは固まった。
困ったように視線を彷徨わせて笑う。
一体どんな悪戯なんだろう。




「い、いきますよ?」

「ええ」

「ほんとにいいですか?後悔しませんか?」

「しませんよ、さあどうぞ」

「いきますよ?」

「ええ」




頷いたその瞬間近づく名無しさんの顔。
頬には何度も触れてわかっている彼女の唇の感触。
でもそれは光の速さで離れていった。




「ざ、ざまあみろ!」




言っていることと表情とが全く不釣合いで。
未だに布団を被ったままの彼女は急いで部屋を飛び出そうとする。
床を擦る布団の端を足で踏んづけてやれば勢いよく後ろに転んだ。
そのまま僕は頭の痛みに耐える彼女に近づいてしゃがみ込む。




「とりっくおあとりーと」

「…」

「お菓子くれなきゃ、悪戯しますよ?」











はっぴーはろうぃん!








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