それからの二週間、僕は彼女の事しか考えていなかった。
こんな自分の姿に驚いた。
まさか女性のことをこんなにも考える時が来るなんて。

こうしてる間にも、彼女は他の男と…。
そう考えるといてもたってもいられない。
会いに行こうか。
でも名前も何も分からない。
それに他の遊女に捕まったりしたら面倒だし。
なかなか腰が上がらない。
でももう一度だけ・・・。










そんな時、また志々雄さんに遊郭に行こうと誘われた。
胸が高鳴った。
彼女に会えるかもしれない。
そしたら名前とか、色々聞こう。
彼女にもっと近づけるかもしれない。

嬉しさをそのまま表情に表すと志々雄さんに何か言われそうだったから
嫌そうな顔をしつつその誘いに乗った。




二週間前に来た場所。
またここに来るなんてな。




「宗次郎、」

「はい?」

「おめえもいい歳なんだし、一人でいいよな?」

「えっ」

「いいだろ?」




それなら彼女を指名したい。
でも名前がわからない。
もどかしいな。
同じ建物にいるはずなのに姿を見ることも叶わないなんて。
僕は彼女の特徴を言って指名しようと口を開きかけた。
でも志々雄さんは僕の相手に僕と同じくらいの歳の人を頼むと遊女に告げた。
しまった、遅かった。


部屋に案内され、畳に腰を下ろして胡坐をかく。
面倒なことになっちゃったな…。
数いる遊女の中で彼女が来る確立は相当低いだろう。
はあ…。
ちょっとの期待で話に乗ってしまった自分を呪いたかった。
これから何時間かこの部屋で遊女と一緒に過ごすのか。




「瀬田様、」




ああ来てしまった。
第一声は何がいいんだろう。
「こんばんは」かな…。
単純すぎるか…。

ん?それより…この声。




「失礼致します」




鈴を転がしたような。
襖が開いた。




「あ、」

「名無しと申します」




あの時と同じだ。
僕の目は、彼女から離れられなくなった。

神や仏なんて信じる質じゃないけど
この時ばかりは信じてみてもいいかなって思った。
言葉が上手く出てこなくて、「こんばんは」さえも言えなかった。
嬉しさで体が少しだけ震えた。




「今晩は宜しくお願いいたします」




彼女は僕に抱かれる覚悟で来たのだろうか。










僕は、そんなつもりじゃないんだ




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テーマ「人外ファンタジー」
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