帰り道。
すっかり暗くなってしまった。
寒さは一段と厳しくなる。
「お前結局飲んだじゃねえか」
「はあ」
「楽しかったか?」
「はあ」
「聞いてんのか?」
「はあ」
僕の頭の中には彼女しかいない。
焼きついて離れないのだ。
釘付けになったあの瞬間、僕の心臓は一瞬止まった気がした。
再び動き出したそれは止まる前に比べて速く動いた。
彼女は部屋にいた女性たちよりも質素な着物を着ていた。
でも誰よりも綺麗で。
こんな一言では表しきれない雰囲気を出していた。
名前はなんて言うんだろう。
なんで遊郭にいるんだろう。
もう誰かに抱かれたりしたのだろうか・・・。
いろいろ聞きたいことはあった。
でも彼女はお酒を置くと、すぐに部屋から出て行った。
その後はどう過ごしたんだっけな。
隣の女性が何か話しかけてきたけど僕はそれどころじゃなくて。
気付いたら時間が過ぎていた。
お酒もなくなり、志々雄さんは腰を上げた。
女性たちに挨拶をしてまたあの門を潜った。
華やかな世界から抜け出した世界はとても静かだった。
暗い夜空を見上げる。
「・・・遊郭にいるんですもんね」
「あ?」
きっと誰かに抱かれてしまっているだろう。
そう思うと、胸がキリキリと痛んだ。
もっと彼女を見つめていたかった。
もっと彼女に近づきたい。
また会えるかもしれないし、もう会えないかもしれない。
そんな不確かな僕と彼女の出会い。
でも心はえもいわれぬ思いに満ち溢れていた。
星はただ輝いていた。
彼女も、この星を見ているだろうか。
こんなの初めてだ