友達でいようねなんて都合のいい言葉通りになるわけもなく、私たちが別れてから何の音沙汰もなく1年が過ぎようとしていた。
電話もメールも、会うことだってなかった。
私の勝手だったのかもしれない。
私が忙しすぎて、宗次郎との時間も取れず、気がついたら会えなくなっていた。
でも宗次郎は文句一つ言わずに
「仕事お疲れ様」「おやすみなさい」ってメールを送ってくれた。
私はそんな宗次郎に甘えていたんだと思う。
でもある時、ふいに別れようと思った。
このままじゃいけない。
宗次郎が可哀想だって。
だから言った。
別れよう、って。
そしたら宗次郎はいつものように微笑んで頷いた。
その瞳の奥にあった切なさには気づかない振りをした。
ごめんなさい、と呟く宗次郎に目頭が熱くなった。
宗次郎がいけないんじゃないのにね。
それからの日々はなんだか物足りなくて。
今までだって頻繁に会ってきたわけではないけど、宗次郎との繋がりが消えてしまったと考えるとやっぱり悲しくなった。
携帯に残る写真とかを見ると、まだ好きなんだなあって思う。
出かけるときとか、宗次郎が似合うって言ってくれた服を着ちゃうし。
気付いた、私には宗次郎が必要なんだって。
でももう手遅れだね。
そっとカーテンを捲り、外を見つめる。
雪が降っていた。
去年は宗次郎が「初雪ですよ!」って電話をくれた。
別れたのはそれからすぐだった。
この一年、すごく長かった。
ねえ宗次郎、今何してる?
あの日みたいに目頭が熱くなった。
白い雪が歪む。
ふいにポケットが振動した。
そっとディスプレイを見る。
「そ、じろ・・・!?」
まさか、まさかまさか。
一気に体が熱くなる。
震える指先そのままに通話ボタンを押す。
『あ、もしもし?僕です』
いつもそうだった。
いつも宗次郎の電話の第一声はこれだった。
昔に戻ったような感覚に声が震えた。
「・・・うん、」
『雪・・・降ってますよ。初雪ですね』
懐かしい声。
会いたいよ。
自分勝手だってわかってる。
でも・・・。
『あなたに…一番に伝えたかったんです』
目を瞑ると電話の向こうで微笑む宗次郎が目に浮かぶ。
電話を通して温もりが伝わってきた。
宗次郎には見えないけど頷く事しかできなかった。
『寒いですね…』
「外にいるの?」
『はい、寒いです』
「どこにいるの?」
『さあ…どこでしょうね』
部屋中に響き渡るインターホンの音。
これが宗次郎だったらドラマみたいな展開。
まさかね。
「ごめん、誰か来ちゃったから切るね」
『はい』
逸る気持ちを抑えて玄関に向かう。
深呼吸をしてドアを開ける。
「わっ!…驚きました?」
ああ、ドラマみたい。
信じられない。
信じられなくてドアを閉めようとすると宗次郎はドアに靴を挟んで閉められないようにした。
そしてドアを掴み玄関に入ってきた宗次郎に抱き締められた。
懐かしい香り、温もり。
それは私の胸を満たして、涙腺を緩くした。
「ごめんなさい、いきなり…」
「…っ」
「泣いてるんですか?」
「…ううん」
「思いっきり泣いてるじゃないですか」
ぽんぽんと頭を叩かれる。
これじゃあどっちが年上かわからないよ。
「僕、気付いたんです」
「…」
「名無しさんじゃなきゃ駄目なんです」
「…」
「あんまり会えなくてもいいです…」
「…」
「もう一回、僕をあなたの彼氏にしてください」
お願いします、と耳元で囁かれる。
私は頷いた。
ただただ頷いた。
どんな言葉でも伝え切れなくて。
安易な言葉で片付けたくなくて。
「ふふ、ありがとうございます」
体を離した宗次郎は目を細めた。
その顔は寒さで赤くなっている。
冷えた頬をそっと両手で包み込む。
温もりを分けてあげたい。
冷たさを分けて欲しい。
少しだけ背伸びをしてキスをする。
触れるだけ。
見ると、宗次郎は昔のように微笑んでいた。
この一年はもしかして存在しなかったんじゃないかと思う。
だけど久しぶりに触れる唇があり得ないほどに熱をもっていて
宗次郎と離れていた時間を物語る。
宗次郎の綺麗な親指が私の唇をなぞる。
「遅くなって、ごめんなさい」
頬に手を添えられたまま、また唇が重なる。
言葉ではうまく伝えられないから。
だから私は宗次郎の唇に応えた。
きっとこうしてる間にも雪は降り積もっているだろう。
耳を澄ますとその音が聞こえてきそうだった。
とても静かな夜でした。
あなたの一年はどうでした?
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2000HIT記念 キョウカ様に捧げます。
無理やり雪をねじ込みました。笑
許してください!!
リクエスト通りではないですけど受け取ってください^^
その上書き上げるのが遅くなってしまい土下座もんです。
すみません!
これからもROMANTICをよろしくお願いいたいます!
椎名