あの日から僕は遊郭に行っていない。
もうこれで終わりにしなきゃいけないんだ。
これ以上彼女のことに首を突っ込んではいけない。

でも、今もこうしている間に彼女は…。
腹立たしいな。
あれだけの顔立ちと性格を兼ね備えているんだ。
客なんてすぐによって来るだろう。


気を紛らわそうと甘味処に行く。
そこの店員の女性よりも
町を歩く女性よりも
やっぱり彼女は魅力的だった。
お団子を味わうのもそこそこに僕は甘味処を去った。

町を歩いていると、櫛が売られていた。
黒くて桜の模様がついた櫛は、彼女が持っていたものと良く似ている。
同じものかな。
ここで買ったのかな。

呉服屋の前を通る。
華やかな着物から、質素な着物が売られていた。
彼女ならどの着物でも似合いそうだなぁ。
僕はあんまり派手なのは好きじゃないから、いつかは彼女に素朴な着物を着てほしいな。
すごく似合うだろうな。






…なに考えてるんだろう。
忘れようと思うのに、すべてが彼女に繋がってしまう。
彼女の存在はいつの間に僕の中でここまで大きくなったのだろうか。




「ああもう…」




むしゃくしゃする。
石を蹴り飛ばしてみてもなにも変わらない。

志々雄さんを恨んだ。
あの日僕をあそこに連れて行かなければ僕は彼女と出会うこともなかったし
こんな思いをすることもなかった。
そして自分の身勝手さに溜息が出た。


どうすればいいんだろう。
でもきっと僕は彼女を忘れることなんてできない。
だって彼女を抱きしめた感触も温もりもまだ覚えているから。




「名無しさん…」




久しぶりに呼ぶ名前。
蘇る笑顔。
会いたい。
会いたいです。








僕の中心はいつの間にか君




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