「だから僕は甘い方がいいって言ってるじゃないですかー」

「でもそれは宗次郎だけのことでござろう」




急に宗次郎が、緋村さんに会いに行くと言い出しこうして東京までやってきた。
緋村さんをはじめ、みんな驚いていて私も思わず畏まってしまったけど
宗次郎は飄々と「へー、なかなか立派な家ですね」と何の躊躇もせずに敷居を跨いた。


来たのが丁度昼時だったため、緋村さんは昼食の準備をしようとしていたところだった。
そしてだ。
なにを思ったのか知らないが、宗次郎は「じゃあ僕も」と言って、しゃつの袖のぼたんを外し、着物の袖と一緒に捲くり上げた。
日焼けを知らない腕が露出した。
緋村さんが困惑した表情でニコニコ笑う宗次郎を見つめた。
「僕も作ります、ランチ」右手を曲げ、特にない力こぶを叩いて意気揚々にそう言った。


相楽さんや薫さんや弥彦くんも興味があるらしく
二人が台所に立つ後ろ姿を見つめている。
私もそれに交じる。

初めのうちは良かったのだ。
緋村さんが、あれを切ってくれだの、あれを取ってくれだの指示し
宗次郎もそれに従ってテキパキと動いていた。

「魚をさばくのは拙者がやるでござる」と緋村さんは言ったのだが
宗次郎は「僕がやります」と言って包丁を奪い取った。
だが見事に失敗し、身はボロボロの状態になった。
「剣の腕は一流なのにな…」と相楽さんが呟いた。

そこから宗次郎の自己主張が激しくなり
最も大事な味付けの場面で緋村さんとぶつかったのだ。




「だから僕は甘い方がいいって言ってるじゃないですかー」

「でもそれは宗次郎だけのことでござろう」

「いや違いますよ。なんでもいいですがもう少し砂糖を入れましょう!」

「わああ、やめるでござるよ!」




有無を言わさず宗次郎は砂糖の袋を傾け、鍋に入れようとする。
それを阻止しようと緋村さんは袋を掴む。
紙で出来た袋は二人の手の間でピンピンに伸びきり、今にも張り裂けそうだ。

次の瞬間、紙の破れる音が虚しく響いた。
同時に中の砂糖が飛び散る。
辺りが白くなる。
体勢を崩した二人は、調理道具などを地面に落としながら倒れこんだ。










なんだこれ…。






「ちょっと二人とも!」




怒り心頭の薫さんはズカズカと近づき二人の頭を叩いた。
申し訳ないでござる、と頭を垂れる緋村さんに対して
宗次郎は相変わらずニコニコしながら「あれー」と笑った。




「いいからもう!私が作るからあっちいってて!」

「おいおい、嬢ちゃんが作んのか?」

「どうしてくれんだよ剣心ー、今日が俺たちの命日だぜ」

「失礼ね!」




宗次郎は袴を払いながら立ちあがった。




「まあまあみなさん落ち着いてください。また作りなおせばいいじゃないですか」

「「「お前が言うな!」」」

「ごめんなさーい、あはは」








結局は牛鍋を食べ、宗次郎が何のために緋村さんに会いに来たのかわからないまま東京を出発した。




「あ、近況を伝えに来たのにすっかり忘れちゃった」

「え〜‥‥」








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