乾いた音が響く。
じりじりとした痛みが頬に広がった。




「僕のあげた髪留めはどこですか?」

「…ごめ…なさ、い」

「謝罪の言葉なんて聞きたくありませんよ。僕があげた髪留めをどこへやったかって聞いてるんです」




おかしいのだ。
宗次郎にとって、自らがあげたものを彼女が身に付けていないことは
自身の胸の奥にちらつくマグマのようなものよりも不可解なのだ。


廊下ですれ違った際、名無しの髪には違う髪留めが着いていた。
それを見るやいなや、宗次郎は有無を言わさず彼女を部屋に連れ込み畳に放り投げた。
そして訳がわからないといった顔の名無しの髪から、不快の象徴を強引に取り去った。
痛みに顔を歪めた。
いつもは穏やかな彼が、何故。
そんな思いが名無しの恐怖心を駆り立てる。
そう思っていると瞬きもしないうちに名無しの耳に、ぱしん、という音が届いた。




「簡単な質問じゃないですか。早く答えてくれればこんなことしなくて済むんですよ」




いつもとなんら変わらぬ口調なのだが、一言一言が氷のように冷たく感じられた。
それとは対象的に、痛みが広がる頬に手を当てると皮膚の下の熱を確かに感じた。




「…部屋に…あり、ます…」

「へえ…」

「…」

「なんで今日はしてくれなかったのかなァ。それよりさっきの髪留め、どうしたんです?」




名無しは色褪せた畳の上に無造作に投げ出された髪留め見つめた。
その視線に気付いた宗次郎は、それを掴み遥か遠くに投げた。

もらったものなのだ。
町の知り合いの男性がくれたのだ。
たまにはそれを着けてみようかと思って着けたはいいが、宗次郎に見られこうして問い詰められている。
素直に話したところで、こんな状態の宗次郎が「はいそうですか」と言って引き下がるわけはないだろう。
嘘でもついたりしたらそれこそ恐ろしい。

名無しの動揺を感じている宗次郎は、彼女の髪を掴み畳に倒した。
答えようが答えまいが、そんなのもうどうでもよくなった。
ただこの胸の何かをどうにかしなきゃ気が済まない。
腹部を蹴りあげると、彼女は涙を流し、躯を折り曲げて咳き込みはじめた。




「…っ…知り合いに、もらって…それで…」

「ふーん、男ですか?女ですか?」

「…お、とこの方…です」




全てを見透かしてしまいそうな、そんな瞳を前に嘘なんてつきようがなかった。
途端に両腕を畳に押さえつけられる。
涙で歪む先の宗次郎。
優しげな瞳に広がる闇。
どうしようもないことを悟った名無しはその瞳をじっと見つめることしかできなかった。




「僕以外の男からもらったものをねえ…」




名無しを見下ろしながら、宗次郎は淡々と作業を進めていく。
衿を広げ、白い肌をじっとみつめ、そっと撫でる。
嫉妬なんてものには縁がない。
それ以前に嫉妬というものがよくわからない。
だが確かに現れた黒いものに、宗次郎は違和感を感じた。
それともこれは独占欲と言うものなのだろうか。

邪魔な帯も取ってしまうと更に露になる肌。
窓から入ってくる太陽の光。
ああ、まだ昼か。
名無しの肌に唇を寄せながらそんなことを考える。




「その人のこと、慕ってるんですか?」

「ちがっ、います…」




宗次郎の舌が首筋から胸元を行き来する。
時折強く吸われ、時折歯を立てられ、躰が跳ねた。
そのまま舌は胸へと辿り着き、焦らすように頂の周りだけを這う。
どくんどくん、と心臓の音が聞こえる。
躰が頬と同じように熱をもって来たのがわかる。
ふっと動きが止み安堵したのも束の間、いきなり口に含まれ、甘噛みされた。
痛みに似た快感なのか、快感に似た痛みなのか。
どちらかもわからず、突然の刺激に名無しの口からは声が漏れた。




「慕ってるんでしょ?ホントは」

「っ…ちがッ…」

「ん?ちゃんと言ってください、聞こえませんよ」




ぱしん、とまた乾いた音が響く。
治まってた頬の熱がぶり返す。
答えたいのだが宗次郎に与えられる快感に言葉は力を失う。
軽く抓られてまた漏れる声。




「ひ、あッ…」

「…」

「わたっ…しは…瀬田様をッ、ふぁ…」

「僕を?」

「お慕いッ…して、っああッ」




長い指が潤んだ秘部へと埋め込まれる。
上気する名無しの顔とは違い、涼しげな笑顔を浮かべたままの宗次郎。
自分だけが服を乱され、肌を曝け出している。
そして空間に響く厭らしい水音に名無しは耳を塞ぎたくなった。




「謝って」

「んっ…えッ…?」

「早く謝ってくださいよ」




先には謝罪の言葉は聞きたくないとか言ったなあ、と考えながら宗次郎は名無しに促した。




「ご、めッ…ひゃっ」

「…」




弱い部分を探られる。
その度に全身が粟立つ。
言葉が上手く紡げない。
乱れる名無しを宗次郎は相変わらずの笑顔で見つめた。
更に奥に指を差し込む。




「やぁッ…だ、めっ…」

「そんなに気持ちいいんですか?」

「んぅ…ッ」

「厭らしいなあ、ほんと」




訪れる絶頂を感じて名無しは身をよじって逃げようとするが
強く固定されどうすることもできない。
つつ、と腹部に舌が這う。
視界が歪む、頭がぼんやりする、躰が熱い。




「どうぞいってください」




その言葉のあとに名無しは絶頂へと突き落とされた。














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