忍と会わなくなって3日の時が流れた。寝室に置かれたダブルベッドに腰を下ろし宮城はイラつく気持ちを抑える為に煙草に火をつけて先端を加えた。ふーと口から白い煙を吐き出した。うっすらと細く伸びた煙は空気中に溶けていく、消えて無くなった煙とは裏腹宮城のモヤモヤした気持ちは消えないままで。

『じゃあ、行ってくるから』
『行先は北海道だったか?たまにはゆっくり羽を伸ばして来い』

いつもと変わらない仏頂面を浮かべた忍がボストンバッグを肩に掛けて家を後にする。その様子を何でも無い顔で見送ったのが3日前の話。

あの時はなんとも思わなかったのに。ああ、くそ…。何で、こんなにイライラしてるんだ。訳もなく込み上げてくる鬱憤をぶつけるように煙草の火を灰皿に押しつける。空になった手はベッドの上に落ち、柔らかい布団の上に埋まる。その手で忍がいなくなったベッドを撫でた。フワフワとした羽毛の感触が手の平に伝わって来る。布団から香る忍の残り香が胸を締め付けた。

疲労困憊した状態で仕事から帰って来た時、緑色と黄色と黒色で彩られた下手くそな手料理と共にリビングで待っていってくれて。帰宅時間が遅くなりすでに日付が変わっていた時は、寝室のベッドの中でスヤスヤと寝息を立てながら愛らしい寝顔で出迎えてくれる。家にいる時もちらちらと俺に『構ってほしい』視線を送ってきて。いつも俺の周りを間にか忍が傍にいるのが当たり前になっていた。



「忍……」

何もない宙に手を伸ばす。渇いた唇が愛しい人の名前を呼ぶ。

「忍……」

生意気なことをいう声が今は堪らなくて、静寂した空間の中、ゆっくりと瞼を閉じる。

会いたいな…言葉に出来ない思いは目の前に広がる闇の中に消えた。


―――――
―――

みや…宮城…

「宮城…!」
「うお!?」
鼓膜を破るような声が脳内に響き、宮城は驚愕して飛び起きた。状況が飲み込めず、辺りをキョロキョロと見渡す。…いつの間にか寝てしまったのか。
「おい、そんな恰好で寝てたら風邪ひくだろ」
宮城の目の前に腕を組んでふてぶてしい態度で此方を見つめている生意気で愛おしくて堪らない恋人の姿。


「し、忍!?」
ここにいるはずのない恋人の姿に眠気が覚め飛び起きる。何でコイツがここにいるんだ!?確か帰って来るのは二日後のはずだろ。自分はまだ寝惚けているのだろうか。頬に手を置き引っ張ってみた。痛い、夢ではないようだ。
「お前、何で…」
「帰って来た…」
帰って来た!?思いがけない言葉に頭がついて行かず呆然とする宮城に目もくれず、寝室の床にどさりと大きなボストンバックを無造作に置く。
「まだ二日残ってるだろ。帰って来たって…」

「………から」
顔を俯かせて消えそうな声で呟く忍の言葉に耳をすませる。
「お前、今何て…」
忍の言葉を聞き取れなかった宮城はもう一度尋ね掛けた。睨みつけるように俯いていた顔を上げた。
「旅行先にいてもずっとアンタのこと考えていて、全然楽しくねえから戻って来たんだよ…!」
今にも喰いついてきそうな勢いで顔を真っ赤にする忍。そんな忍を見て、宮城はにやけそうになる口元を押さえた。
「お前、本当馬鹿だよな」
「馬鹿ってなんだよ」「じゃあ…今度、一緒に行こうか」
…北海道に。満開のラベンダー畑の中を二人で歩いて。焼きトウモロコシを食べて口の周りをベタベタにする忍の口元を「ガキだな」って笑いながらハンカチで拭ってやる。市街を観光した後、夜は函館の100万ドルの夜景を見つめる。他の誰とでもない、コイツと一緒に。
宮城の唐突のに目を丸くしてコクリと小さく頷く。嗚呼、本当にコイツは……忍の身体を抱き締める。
忍の髪を撫でるとふわりとボディーソープの香りと混ざって忍の香りが鼻腔を擽る。
「おかえり…」
「ただいま、宮城…」

君がいなくても君のことばかり、笑いたくなるくらい―――僕は君に恋してる。







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