「そういえば、週末の事だけど」
「週末?何かあったか?」
「………、」



あ、やばい。
明らかに、一気に不機嫌になった忍。きっと細くなった瞳が俺を睨みつけて、沈黙。そしてひとこと、「何もない」。ああ、何か約束とかしましたっけ誰か教えて!!!

結局その日、忍は終始機嫌が悪くて、朝昼晩とキャベツの油炒めは焦げていた。あ、ああいつもか。ただでさえ口数が少ない我が家だというのに、今日はまるで葬式のような暗さと静けさ。しかし次の日の朝になると忍は何にもなかった顔でおはようといったので、週末がどう、といっていた忍の事なんて、忘れていた。そう、忘れていたのだ。

そして、週末を迎えたのである。抱えていた大きな仕事が終わり、数日ぶりに彼に会える。家に帰る時間もなかったので最後に会ったのは…いつだったろうか。きっと、拗ねているんだろうな。でも俺が帰ってきて嬉しい気持ちとごちゃまぜになって。顔を赤くして小さく笑ってくれる忍を瞼の裏で思いながら部屋の扉を開けると、ぱたぱたと足音が。

走ってきたのは、大きな、真っ赤な薔薇の花束。君を隠すほど大きなその花束は、燃えるように赤い色、ああ、この色は知っている。花束からひょこ、と顔をだした忍が満面の笑みでいう。「誕生日おめでとう」そこで、週末のことだけど と妙にそわそわして俺に訪ねた彼の事を思い出した。あ、俺、誕生日だったのか。



遥か遠い昔の事だ。まだ、大好きだった彼女が生きていた頃。最初で最後に、俺が先生の誕生日を祝ったあの日。いつもお見舞いの時に持っていく百合の花や、アカシアの木陰とは違い俺が選んだのは真っ赤な赤い薔薇。あの時は笑われた。馬鹿じゃないの、薔薇なんて!ああ、あなたがそれを花屋で買うところを想像したらおかしいわ。

「でも、ありがとう」

一本一本に貴方の名前をのせた。一本一本に、貴方への思いをのせた。一本一本の薔薇に、貴方の好きな所を教えた。そしたらこんな数になってしまった。真っ赤な薔薇は病室の白によく栄えて、綺麗だった。まるで、目の前の彼のように。

同じ気持ちを持っている。それだけで幸せだ。花束ほど彼を抱きしめた。あのときの優しい香りとは少し違って、この気持ちを何と名前をつけていいかわからなかった。





(涙がでちゃうよ、だーりん)











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