■ 君の為ならば容易く。(錆 白兵)
「なんでなんでなんで!」
「うるさい」
私がこうして叫んでいるのには訳がある。何も無鉄砲にぎゃんぎゃん言っているわけではないのだ。
理由はこうだ。
「何故、手を繋いでくれないのですか!」
ほら、ちゃんとした理由でしょう。
なのにこうだ。黙々と歩みを進める白兵さんには何も伝わらない。
「こんなに好いていると言うのに!」
ねぇ、ねぇと袖を引っ張っても全く返事をしない。
ああ、川はオレンジ色に光りさらさらと流れる様は綺麗だ。空も赤らんできている。こんなに綺麗な風景の中、白兵さんと歩けるなんて幸せだ。
幸せだが、この手がぼっちなのはやはり寂しい。
私の願いを受け入れてくれず、一歩先に歩く白兵さんの背中を見ながら切なくなった。
「もう、いい…です」
私の好きという気持ちもきっと独り歩きしていたのだと、立ち止まる。
「…花子?」
そんな私に気付いたのか数歩先で歩みを止めた彼が近づいて来た。ああ、きっとなら帰れと言われるのだろう。
歩くのも遅く、我が儘で、好きだ好きだと…重いなあ、わたし。
「何をしているでござる」
はっと顔をあげると、綺麗な白兵さんと目が合う。そして、女とも見える白兵さんのやはり男だとも実感させられる大きな手に私の掌が包まれていた。
「あの…あの…」
狼狽える事などあまりなかった私にあまりの突然な出来事が、顔を熱くさせた。
私が口をはくはくさせ、戸惑っていると手を引っ張られ歩き始める。ああ、夕方で良かったと密かに思った。
「拙者とて、恥ずかしい事はある…分かってくれ…」
え?と白兵さんを後ろから見るとオレンジ色の光に照らされている顔は分かりずらいがきっと赤くなっている。
覗きこんでも目を合わせてくれない時はだいたいそんな時なのだ。
「ただ、お主がどうしてもと言うならば…」
手に力がこもる。ああ、優しくて、なんて可愛い方なのだろうとつい、ふふと笑いを零してしまった。
「なっ、笑うな!も、もう良いでござる!一生繋いでなどやるものか!」
あ、やはり顔を赤くしていた。ぱっと手を振り払われたが私は急いで両手で掴み直した。
「ごめんなさい、もう笑いませんから」
だから、と言葉を繋げる。
「もう一度聞かせて下さい」
数秒あけて納得したのか手を繋ぎ直してくれた。
「どうしてもお主が拙者と手を繋ぎたいと言うならば、人が少ない所でなら…幾らでもと…」
うう、やはり良いでござると早足で歩き始めてしまった。
人はすれ違っているというのに俯いて手を繋いでいてくれる白兵さんに煩い鼓動が止まらない。
ああ、できる事ならいつ迄もこの道が続いていれば良いのにと彼と繋がれたこの手を見て節に思うのであった。
「はい、お願いします」
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アンケから人気の白兵さん登場、ツンにしたかったのだけど最後にはやはりデレを求めてしまう管理人。どうかお許しを(>_<)
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