■ 頂戴、頂戴。(蜜蜂)
「無理です、無理ですよ!」
この男は、さっきからこれしか口にしない。それしか喋れないのか、まったく。
「頂戴、ねぇ蜜蜂、頂戴?」
いやいや、と首を横に振り困った表情を浮かべる。ズルい、ズルいよと顔を覗きこむと、いつもは隠れているその真っ黒な瞳と目が合う。
「…花子さんっ……」
グイッと身体を離されてしまう、見える蜜蜂の耳や顔が赤くなり楽しくなってしまう。無理な事は分かっていても、この人を困らせたいのだ。
「蜜蜂、真っ赤だね。」
これは…ともごもご口を動かす。
これ程まで気持ちを隠すのが苦手なのは私の前だから?まぁ、真庭頭領の半分はそんな性格の人が多いのだけれど。
「其処までにしといてやれ、花子。」
ジリジリと距離を詰めていくと後ろから声が掛かる。
ちっ!良いところだったのに。
「か、か、蟷螂さぁーん…」
涙目で先輩を見つめるこの人は本当誰の事が好きなのか分からない。
「邪魔しないで下さいよ、蟷螂さん。」
「野暮な事はと思ったが…蜜蜂を虐め過ぎだ。花子。」
身長はどう足掻こうとも、貰う事など到底無理なのだから。
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「ふんっ、知ってますそんな事!」
プンプンと怒る真庭虫組頭領、蝶蝶並のその後ろ姿を慌てて追いかける蜜蜂。
「待って下さーいっ…はぁはぁ、花子さんはその姿だから可愛いんですよ。」
「う、うるさい!」
「そこも僕は大好きです。」
「…………うるさい。」
そう俯いた彼女の顔は先程の蜜蜂の何倍も真っ赤だったそうな。
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