■ 団子とお茶を頼む。(錆 白兵)

ああ、あの彼女に会ったのが拙者の運の尽き…。剣士としても、人間としても未熟であったと目の前にさらさら流れる小川を見つめ次の町へと歩き出す。

錆、錆、と俺の名ではなく姓を呼ぶその彼女の名は花子と言う。

「あ、錆さん、いらっしゃい!」

まただ、俺の事を姓で呼ぶ。行きつけの団子屋の看板娘らしいが、砕け過ぎやしないだろうか。
周りを見ればいつも通り、男達が団子を頼み茶を飲んでいる。この男達と同じ様に座る自分に無性に腹が立つ。

やっぱりまた今度と席を立とうとすると、花子殿が此方に歩いてくる。どうしたの?と首を傾ける花子殿から顔を反らしてしまう。

「今日もいつもので良いんですか?」

ああ、頼む。とつい口に出してしまう拙者は馬鹿でござるか、帰る訳にも行かず席に落ち着く事にした。
ああ、言っておくが、そんなに頻繁に訪ずれている訳じゃない。決して。
ほんの気が向いたり、この町に来た時には必ず顔を見せるぐらいでござる。

茶を片手に花子の働きぶりを盗み見る。下賎な男等が離しかけて、花子の仕事を中断させるのはいつもの事だが毎度の苛々させられる。

「団子をお持ちしました。」

あ、ああ、少し土盛りながら受け取る。ペースを乱してしまった。花子殿かと思い顔を上げたのだが、全く違う娘で少しがっかりしたなどと悟られては羞恥!


ここの団子は美味い、そう噂を聞き最初は訪れたのだが。
通うたびに違う理由へと変わってしまったのだった。

媚びない彼女、自然な態度、笑顔が可愛らしく、睫毛が長く、皆を虜にする。

皆を虜に、とは良く拙者に言ったものだがときめいてしまったのは正しく拙者の方だったのだ。なんと、笑える話か。

その時、皿が何枚も地面に叩きつけ割られたような音が鳴り、周囲が騒がしくなる。

気づいて辺りを見回す頃には店には拙者しかおらず、大柄の男が唾を吐き散らしていた。

「ああん!?その態度はなんだ、お嬢ちゃん俺を誰だか分かってんのか!その俺に、茶なんかぶっ掛けやがって…」

チラッと見ると先程団子を拙者に持ってきた女の手首を持ち何やら怒っている模様。
茶を掛けられたぐらいで騒ぐとは浅はかな男でござる、と団子を口にする。

「ああ!?何つったそこの…女かぁ!?」

その汚い口を閉じろ、近くで怯えている花子殿に唾が掛かるではないか。
刀に手を掛ける。

だが、娘が邪魔だな…娘の手首を掴んだ男の手を引き離そうと花子が男の手をお盆で叩いている。可愛らしい、でなく花子殿ここは拙者に…と口にすると男が何だと呆れた声を出した。

「何だお前、男か。」

声でやっと気付いたのだろう。
だから何だと言うのだ…と睨むと汚らしく笑い声を上げる。

「やっぱ俺的にはそっちの別嬪な姉ちゃんだなぁ、俺と一緒に来てくれれば許してやるよぉ。」


なっ!と、お盆を止めた花子は固まり娘は涙を流す。
拙者もその言葉に眉をピクリと動かした、それと同時に娘の手首を離した男が花子殿に向けられる。
やっと手を離したと思ったら…寝言は寝て言って欲しいものだ。

「拙者に…ときめいて貰うでござる。」

は?と此方を向いた時にはもう終わっている。男はその場に倒れこんだ。

「か…かっこいい…」

その言葉はお前から聞きたい言葉ではない。勿論、娘でも。

そして、決めゼリフも花子殿に向けて言ったのだが…と思いながらチラッと花子殿を見る。

これは自惚れても良いのだろうか。


「ありがとうございました…」

そう言って俯いた彼女の真っ白な肌が真っ赤に色づいていた。

「白兵さん、とお呼びしても…」

ああ、きっと拙者も同じであろうな。

キザにああ、と返事をし刀を仕舞い、花子殿とプライベートで会う約束を取り付け、また来ると店を後にした。


___________
何処か拙者の足取りが軽く感じるのは、きっと花子殿の笑顔のお陰だろうか。

なんだか変な音が聞こえているなと下を向くと、ジャブジャブと足が川に浸かっていた。

「……………不覚。」


(comment*☆.)


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