■ 居場所はコンビニ。(錆 白兵)
家から三分、そのコンビニはそこにあった。私はいつも嫌なことがあったらこのコンビニに来る。そして飲むヨーグルトを買って外のベンチでそれを飲んで帰る。
あ、今日もこの店員さんだ。
「135円になります」
いつも少し格好良いなと思っていたんだ。
名前は…ちらりと名札を見れば錆 白兵と書いてあった。
錆と言う字がなんて読むのか分からなかったから外のベンチでヨーグルトを飲みつつ携帯で調べた。
「さ、び…さび はくへい」
ず…ずずっと最後のヨーグルトを飲み干し自宅へと帰路を歩く。
何だか足が軽い。
数日後、両親が離婚すると言った。
うん、分かっていた。だってよくケンカしていたし、お父さんは私に手をあげるしお母さんはよく泣いていたし。
「私は平気だから」
そう言って家を出た。
ああ、そうだっけ。私がここ最近よくコンビニに来ていたのは両親の雰囲気に耐えきれなかったからだ。
中に入ればまたあの店員さんがいた。物を並べている錆さんと目が合って、私は直ぐに目を逸らした。
飲むヨーグルトを手にし会計に向かう。
「お待たせ致しました」
レジに入って来た錆さんは135円ですといつもと同じ言葉を口にした。
あ、お金無かった…恥ずかしい。
「すいません…お金無かったからまた」
「いつも」
「え?」
「いつも目を腫らしているな、嫌な事がある度にここへ来るのだろう?」
錆さんは自身のポケットから小銭を取り出し机に置いた。
「拙者の奢りでござる」
そんな訳にはいかないと言おうとするが直ぐにレジを開けられ、いつも通りバーコードの部分にテープを貼られ渡される。
「ありがとうございました」
「すみません…また返しに来ますから」
私は外のベンチに座らず直ぐに帰りたくない家に帰り貯金箱のお金を財布に入れコンビニに戻りベンチに座って135円を握りしめ錆さんが仕事を終えるのを待った。
数時間してゴミ箱の整理に来たのか錆さんが驚いた顔をして横に立っていた。
「!……まだ居たのか、いつも思うが女子が一人で危ないぞ」
あ、これお金…と手を差し出すが手を押し返されて微笑まれた。
その見た事がない表情にどきどきした。
いつも販売のくせに笑顔一つも出さない彼は逆にそこが人気なのかうちの学校の女子達が騒いでいたのを聞いた事がある。
「あと少しで終わるから」
そう言い残し戻って行って本当にものの十数分で私服の錆さんが現れた。
「早かったですね」
「あと少しで終わると言ったでござろう」
お金をと握りしめた135円を出せば「奢りだ」と言われたが、そんな訳にはいかないと言うと135円ぐらい別に気にするなと返されて何も言えなかった。
そして沈黙が続く。
「送って行こう。よくこの店に来ているから近いとは思うが、長い時間待たせてしまったしな…」
送って行く。と立ち上がり勝手に歩き出す。
「あの…こっちです…」
まさかこんな事になるだなんて思わなかった。いつも行くコンビニの店員さんの横を歩いているだなんて、しかも錆さんの。
私は歩を止める。
もう、ついてしまった。
「ここか?」
「あ、はい…」
「では拙者はここで失礼する」
後ろを向いて歩き出した錆さんにお礼を言うが家に戻る気になれなかった。
「公園…行こっかな……」
ギィ、ギィと誰も居ない公園でブランコに座りこぐと公園の入り口から誰かが歩いて来て驚く。あ、何だ…錆さんか。
「何故まだここにいる」
「錆さんこそ」
「拙者は迷っていただけだ」
ふふっと笑えば微笑む錆さんにどきっとした。不意打ちだ。
隣に腰を下ろした錆さんは立ち入った事を聞くがと口を開いた。
「何があったか拙者に話して軽くなるのなら聞くが…」
「………親が離婚するんです、あはは、今日初めて話した人にこんな話するなんて思わなかった」
渇いた笑いを浮かべれば無理に笑わずとも良いと言われた。
無理に?そんな無理に笑うだなんて私は別に…そんな私の意思に反して涙がポロポロと膝の上に落ちた。
あれ、止まらない。
「分かって、たの…離婚だなんてそんな珍しい事じゃないし喧嘩だってしょっちゅうだったし…私もう高校生卒業するし自立しようって」
言っている事がはちゃめちゃで何を言ってるのかもよく分からなかった。
全て話し終えた後は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで…だけど、何だかスッキリした。
「経験してもいない者が簡単に言える事ではないが…良く頑張ったな」
ぽつりと言われたこの言葉は心にすうっと浸透して、私はこくりと頷いた。
「帰りたくないのか」
「今日は帰りたくない…けど、行くとこもないから帰ります」
そう立ち上がれば、親に早く電話しろと言う彼に首を傾げる。
「拙者の部屋に来い、今日一晩ならば泊めてやる。高校生にどうこうするつもりはないから安心しろ」
うん、うん…今日は友達の所泊まるから…うん、じゃあ。
そう告げ、電話切る。
何でだろう、この人なら大丈夫だと思ってしまった。携帯をしまい錆さんを見れば立ち上がり歩き出す。
それに着いて行けばいつものコンビニが見えてくる。
「拙者は大学生だ。あのコンビニの近くに住んでいる。」
隣を歩くこの店員さんに胸がどきどきする。時々目が合えば安心させるかのように微笑む彼に私は恋をしてしまっていた。いつから?いつからだろう、つい目で追ってしまっていたその時から好きだったのかもしれない。
今日まで名前も知らなかったこの人が、好きだ。
コンビニの横を通る度に、錆さんの事を考えていた。勤務時間にいつも来ては探していた。目が合えば嬉しくてまた目で追っていた。
そして今もコンビニの灯りに照らされている錆さんを見ては思い出している。
私は先を歩く錆さんの袖を掴んだ。
りんりんと鈴虫の音が辺りに響いている。いつもは余り聴こえてこないのに、錆さんと歩くと何だかまわりの音や景色に敏感になる。
「錆さん、…あのね」
2013.08.07
錆さんがコンビニで働いている姿を想像して、書きました。ピュアな夢を書きたくてこうなりました。しかし、最近長くなってしまう。反省(^^;; 錆さんのござるって敬語なので本日の錆さんは歳上だから敬語はナシに致しました。コンビニじゃなくてもレンタルビデオ店でも良かったな、萌える。二十歳が高校生に手を出したら犯罪ってことで錆さん残念!
そして、錆さんも夢主ちゃんと一緒で来るたびに目で追っては目を腫らしている夢主ちゃんを心配していたんでしょう。
あー、錆さん格好良いな。
ここまで読んで頂きまして、ありがとうございました。
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