■ 紫陽花の様に。(錆 白兵)
しとしとと降る雨。
周りを見渡せば色付く紫陽花。
暑い、暑いなぁ。しかし、この人は汗一つかいていない。何故だ、このじとじととした湿度の中のこの温度も拙者には意味を持たぬ、という事だろうか?言っている事はかっこ良く聞こえるだろうがこの人が言うからであって…ほら、そこら辺を歩くお侍が言った所でどうだろうか。只の阿保だ。
「暑くは、無いのですか」
縁側に腰掛けくるりと振り向く、無言でトントンと自分の横を叩くあたり、ここに腰をおろせと言う事だろうか。
私は団扇を止め白兵殿の隣によいしょと腰をおろした。
「団扇使いますか」
「いや、いい…」
先ほどから何を見ているのだろうか、何やら視線が…ああ、花を…
「紫陽花を見ておられるのですか?綺麗ですよね…確か最初は白く、徐々に赤や青くなるのだとか。もう色が付いていてとても綺麗…」
「いや」
私がとても綺麗ですねと言い切る前に首を振られてしまった。こんなことは珍しいので目をぱちくりさせると白兵さんは頬を緩ませ、そんな事はないと言う。
「色付いた花も美しいが、真白の花もまた優美でござる」
指差す先にはまだ色の付いていない紫陽花が隅の方にちょこんと咲いていた。
色がついていないと不思議な感じがする、紫陽花と言ったら紫なのが普通であったから。
「花も着飾るのだな」
小首を掲げ、白兵殿のその言葉の意味を聞く。
「ん、ああ。見目良く魅せたいのは花もまた同じなのだなと思ってな」
そういう意味だったのか、私は少し肩を落とした。町娘のように身なりを着飾る事もせず、化粧も薄く少しする程度だ。
やはり男の方は見目が鮮やかな女性が良いのだ。この方の横を歩くのが本当に私なんかで良いのだろうかと思った。
その瞬間、はっと意識が戻る。
私の手の上にそっと手が重ねられたのだ。
「花子、拙者はあの白い紫陽花が好きなのだ。お主の様に着飾らずとも美しく、毎日でも見ていて飽きぬ」
真面目な顔で、真白がどんな色に染まっていくのか楽しみではないかと言うが、その似ているという対象はその言葉に顔が真っ赤である事は間違いない。
「あの、白兵殿…お手をっ」
わたわたと焦る私とは裏腹にじっと私を覗き込む白兵殿の所為でまた暑さとは違う汗が出る。なんせ、この人は甘く囁くのがお上手だから。あーん、あの方に愛のお言葉を囁かれたぁいなどと町娘の間でも人気なのだ。
「しかし、どうせ色付く定めならば−−−」
耳元で囁かれた言葉はこの人が言ったと思って良いのだろうか…
姿に似合わないその私の好きな低く脳に響く
その声に心臓がぱんっと弾け飛んでしまったかと思った。
「今…なんて?」
「楽しみでござるな、お主がどう色付いてゆくのか」
______________
『どうせ色付く定めならば、拙者の色に染めていくというのもまた良いかもしれぬ』
赤火様リクエスト作品。
白兵さんのほんわか甘と言う事で書かせていただきました。今の季節に合ったものを書かせていただきましたが如何だったでしょうか?白兵さん、アニメだとトキメクトキメク言っていてあまり喋らないから書くのは苦手なんですがそれだけ妄想するのが楽しいですよね。むふむふ。
ここまで読んで頂きましてありがとうございました(^O^)
2013.06.21
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