■ 後ろ姿に惚れました。(蜜蜂)
木の影から顔を覗かす彼女。気付いていないと思っているのだろうか、これでも忍者の頭領なのですから気づかない筈がないのだけれど…
「おい、蜜蜂。あれで隠れてるつもりなのか」
「すみません」
「少しお前の隊の教育を見直せ、蜜蜂」
「すみません」
やはり怒られてしまった。蝶蝶さんと蟷螂さんも呆れている、僕は溜息を吐いた。
あれで隠れていると言う方がおかしいのだ。すっと顔を出しては此方が振り向くと顔を引っ込める。
僕は地面を蹴り、二人を後にした。
後ろに回り様子を伺う。
「あっ、あれ?蜜蜂さんがいない」
わたわたと慌て、辺りを伺うこの女性は僕の部下でもあり僕の後輩だ。
忍者には不向きと言った方が正しい女の子だ。
「花子、僕はここですよ」
びくりと肩を大きく震わせ、カラクリの様に振り向く彼女につい笑ってしまった。
「い、いつのまに」
「まったく、気づかないとでも思ってるんですか?貴方が戦闘向き忍びでなくて本当に良かった」
がみがみと僕には不似合いな説教を施した後、とぼとぼと歩く彼女を里に送る。
一応、頭領としてやらなければいけない事をしたまでだ。仕方が無い。
しかし、やはり気になりチラチラと様子を伺ってしまう辺り僕らしいと言った所か。
「はぁ、何故あんな所で偵察みたいな事をしていたんですか?バレバレでしたよ、本当にもう」
ごめんなさい、蜜蜂さんとやはりトボトボと後ろを歩く彼女に少し焦る。
そんなにキツく言ってしまっただろうか。
「花子、すいません。僕、言い過ぎましたか?」
やはり、落ち込んでいるのであろう彼女は俯いた顔をあげない。手の甲で目元を擦っていて僕はビクリとした。泣いて、しまった。
「花子、花子?すみませんでした、強く言い過ぎましたね。何か僕にできる事はありませんか、顔を…あ…げ」
しまった。
顔を上げた彼女は悪戯な微笑みを浮かべしてやったりの顔をしていた。
「今のは取り消します」
「駄目です、うちの頭領は言った事をなかった事にする様な事はしないですよ、ね?」
ぐぬっと言葉を詰まらせる。
まったく、卑怯卑劣この上ない。この辺は忍者にぴったりだ。逆に僕の方が向いてないのではと少し落ち込んだ。
「では、後ろを向いていてくれませんか」
「それだけで良いんですか?…っ!」
後ろを向いた途端背中にぼすっと衝撃を感じる。腰に回る手に動揺が隠せない。
「ちょ、ちょっと、花子なにをっ」
別に里の者の為に背中を見せる事に躊躇いは無かったのだけれど、これからは安易に見せる事は無いだろうな。
振り向くと僕の髪の毛に顔を埋める彼女はとても気持ちが良さそうに顔を綻ばせていた。
「蜜蜂さん、やっぱり気持ちいいですね。もう少しだけモフモフさせて下さい」
きっとこの機会を伺っていたのか先ほどの視線は、と冷や汗をかく。
「んー、ずっとやりたかったんです。蜜蜂さん、気持ちいい、優しくて大好きです」
こんな事をすんなり言ってしまう小悪魔な彼女に顔が熱くなる。
まぁ、もう少しだけなら触らしてあげても構いませんか…僕はわざとらしく溜め息ひとつつき彼女に背中を託した。
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「うわー、やっぱり蜜蜂甘やかし過ぎじゃねぇか?蟷螂殿!」
「いや、あれは甘やかすというよりも…」
自身の気持ちに気づく事になるのはここから更にひと月経った時の話。
少し銀閣さんの話がシリアス気味だったので蜜蜂で挽回www蜜蜂が部下にも敬語だったら最高。萌える。アンケートで蜜蜂の髪の毛をモフモフしたいと言う意見に賛同して書きました、フォー・ユー∩^ω^∩
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