それはデレでした。



「阿久津ー、阿久津ー」

ねぇ、顔怖いよ。すまいる、すまいると言えばうるせえと一喝された。

「阿久津、駄目じゃないか。女の子はもっと丁寧に扱ってあげないと」

そう柔かに近寄って来る千石くんをふんと無視しながら単車に跨がる。
中学生が単車なんてヤバイだろ、でも自転車で登校してくる阿久津仁なんてもっとヤバイ。

「いーのいーの千石くん」

「でもさぁ。あっ、こんな奴よりも俺なんてどう?いっつもスマイルだよ!」

ね?なんて両頬に両手の人差し指をお茶目にくっ付ける彼を見て笑う。
こんな事出来るの何て某中学校テニス部レギュラー陣ぐらいだろう…あ、意外に沢山いる。なんて思っていたらてめぇ、と阿久津が千石の胸ぐらを掴んでいた。


「チャラいからやだよ」

「あはは、だよね」

乾いた笑いを浮かべる千石くんに舌打ちしながら手を離す阿久津に帰ろ、と手を差し出す。

「そんな恥ずかしい事できるか、阿保が」

そっか…しかも、単車あったっけねと笑うといつもみたいに悪態付きながらだが単車を置いて歩き出した。

「今日は歩きてぇ気分だ」

ぶふっと千石と二人で笑ってしまった。やべ、怒られる。この横のチャラ男が笑いました、私は笑ってません、この人の副音声も聞こえてました。

といえば、メットが飛んで来た。
おお、千石くんがしっかり受け止めたがこの動体視力が無くて突き指したらどうすんだ、コイツ。

「千石、見逃してやっからオレん家に単車置いとけよ」

えー、と明らかに嫌そうな声を上げるがギロリと睨まれ「わ、分かったってば」怒らないでよーと頬を膨らます。

「………わりぃな」

聞こえるか聞こえないか本当に微妙な音量で呟かれたそれに私達は顔を見合わせ微笑む。私もありがと、と伝え阿久津の元へ駆け寄った。

風貌がやたらと怖く、大柄な男が隣にいるおかげで周りから変な目で見られる。
でも私はそれが嫌いではない、何故なら少し顔を赤らめながらも手を繋いで歩いてくれるこの強面な男が大好きなのだから。

「阿久津、ありがと」

「ち、調子のんじゃねぇぞ」





_____________

ちょっと阿久津、学校休んでんのに花子ちゃんは迎えに来るとかどんだけ?

と笑いを含んだ千石にブチ切れする阿久津が見れるのはまた後日の話。






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