モテる杏ちゃんに嫉妬。



神尾のばーかばーか、あほ、リズムくそ野郎。

目線の先には、しょっちゅう女子テニス部の練習終わりに現れては橘杏に話し掛ける近所に住む幼馴染みの神尾アキラの姿があった。

なんなのアイツ、ねぇ!まったく気持ち悪いと思わないっと近くにある制服をグイグイ引っ張る。

「ちょっと、制服伸びるんだけど」

もう止めてよね、本当神尾に着いて来てって毎回言われてしょうがなく来てやってんのに、挙句制服まで伸ばされたらそれこそ損ばっかりじゃないか…とぶつくさ呟く男も毎回居らっしゃる伊武くんだ。

すいません、と制服を離すとパンパンと払われる。
え、何?そんな汚いの私。

と落ち込んでいると、ねぇっと横から聞こえてきた。見ると彼が指差す方向には神尾と杏の小さくなった背中。

「先に行っちゃったけど、君はどうすんの?」

行くわよっとテニスバックを担ぎ、歩き出すと後ろを伊武くんが黙ってついてくる。

杏とはこの後近所のテニスコートで練習を約束していたので、きっとそこであろうが。神尾もついてくんのか?

まぁ、うちの男子テニス部はそれなりに強いので練習相手としては申し分ないのだが…

「ね…ぇ…

ねぇってば、無視?」

あーあ、本当やんなっちゃうよね、何?好きな人しか見えないってやつ。女の子ってどうしてそうなんだろうね。
またもボヤく男。いや、なんと言った。私があの…?

「好き…とは何を?」

神尾の事が好きなんでしょ?と怪訝な顔をする伊武くんにブンブンと首を横に振る。

幼馴染みである神尾の気持ち悪い部分を見てイライラしているだけだ。

いや、私がモテないし杏の方に嫉妬しているのかもしれない。
よく家にお邪魔する橘兄には可愛いとか近所のおばさんにだって褒められているのだが…。
まぁ、杏と違い素直じゃなく愛嬌がないからだろう。

「好きなんじゃないの?」

驚いた彼が目を真ん丸くして聞いてくる。ずっと好きだと思っていたと。

「そうなんだ、へー、ふーん、近所で幼馴染みで腐れ縁って聞いていたし、杏ちゃんに話し掛けてる神尾をずっと見てたから…」

なんだ…と呟いた伊武くんは止めていた足を動かして、私を追い越す。

このままでは置いて行かれると早足で横に並ぶ、無言で横に並んで歩く私の方をくるっと向く伊武くんにビクッとする。

「そうだ、俺もまた神尾と来るからね。」


言っている意味が分からないが、コクコクと頷いた。全く、神尾も橘さんも人が悪いよなぁ…と言葉を続ける。何を言っているのだろうか。


神尾は杏ちゃんが好きだけど…





「俺は君が好きだって事だよ。」



____________

何がどうなってこうなってしまったのだろうか。其れからと言うもの帰りにいつも女子テニス部に顔を出す伊武くんの顔を見るたびに顔を赤くしてしまうのだった。

此方の様子を伺う神尾と杏と橘兄。

「あれ、お兄ちゃん?」

「あいつら何時の間にか仲良くなってるみたいで…」


グヌヌとフェンス越しから見ている橘は過保護と言うより、花子が好きな杏のお兄ちゃんでした。









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