無自覚な後輩。

「鳳くん、そろそろやめよ。」

良いじゃないですか、と全くもってやめようとしない。この年下の男は大型犬の用な懐き具合ではあるが、最近言う事を聞かないのだ。

「やめよ、やめんかい」

何度言ってもこの男は、首を縦に振らない。

もう、帰るよと歩き出すとうでまで掴まれた。ちょっ…もう、私はお腹がすいたんだけど、貴方のお遊戯には付き合ってられないのよ。

「待って下さい! もうちょっと、もうちょっとだけですから。」

お願いしますと定位置に戻って行く。一応、私はこいつの先輩兼彼女なのだが夢中になると幾ら言っても聞いてくれない、それ以外ならば長身で優しくて格好良い文句なしに自慢の彼氏なのだが…。

「ねぇ、まだ?」

「あとちょっと何ですけど…」

指差す先にはクレーンゲームの人形が何としても捕まらんぞと鳳が動かすアームをすり抜ける。

ちょっと、貸してごらんと財布から小銭を出しボタンを押し、人形を冥府の淵へと落とした。

わっ!わっ!凄いですねっ、花子先輩っ
と両手で人形を受け取り喜ぶ様はまるで飼い主から骨を貰ったかの様だ。

「庶民なめんな。」

こちとら、跡部君やここにいる大型犬の様に裕福な家庭でそだった訳ではない。むしろ、一般家庭並だ。テニス部が有名だと聞き、勉強に勤しみ、オープンキャンパスの時間も勉強勉強。そう、外観だけで小学校卒業と共に途中編入を決めてしまったのだ。
小中高とエレベーター式のここはまぁ入ったら入ったで楽なのだけど、テニス部とは男子テニス部の事でその規模に比べたら女子テニス部などチンケなものだった。

まぁ入ったのだけれど。
個人でしか大会では成績を残すしか出来ず、次世代の後輩達を育てる事に全力を注いでいる。

その行いや、大会で成績を着々と集めている功績が認められ学校からもそれなりに援助されて、更には男子テニス部との交流も最近では少なくない。

色恋が興味がなかった私をコロリと落としたのがこの男だった。

ところでさ、それ…と指差すと。

ああコレですか?とニコニコと話し出す。



「これ、宍戸さんに似てませんか?」


だよね。

柴犬が何故か帽子を後ろ向きに被ってる人形を優しく撫ぜる鳳くん。
何故かな、直ぐに近所に住む宍戸くんの家に行き思いっくそぶん殴りたくなった。

_________

「今度は俺が先輩の為に取りますからっ!」


うん、と切ない気持ちを胸にしまい込み帰りの道を一緒に歩いた。




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