■ 34話/やっとお届け申した。
「お待たせしました〜」
一波乱あったが約束通りおにぎりを届ける事に成功した。用具倉庫の前では生徒たちがアヒルの形をしたボートを直しているみたいでせっせとトンカチやペンキのハケを動かしていた。
「食満くんっ、おにぎり持ってきたよ」
「ん、ああ、すまな「ああーっ、食堂のお姐さん!」
食満の声を遮り飛び出してきたのは以前大変にお世話になったあの土井先生が担任をしている一年は組の可愛い生徒だった。
「わぁーい、おにぎりだぁ」
「お姐さんが作ってくれたんですよね」
ヨダレを垂らしながら一点を見つめているのがしんべいくんで、キラキラと目を輝かせているのが喜三太くんだったと思う。記憶力はあまり良くない方だから少し不安である。
「おい、お前らいきなり出てきて花子さんがびっくりしてんだろうが!」
「大丈夫、大丈夫。一年は組の子供たちのお約束だもの」
コツンと二人の頭を小突く食満。なんか保護者って感じがして微笑ましい事この上ない。いてて〜はにゃ〜なんて笑いながら言っているし、食満君はとても軽く小突いているのだろう。ほんと可愛い光景だよ。まぶしいな。
「みんな休憩させてあげてね、食満くん。お茶もあるからね」
「そうだな、そうさせて貰うかな」
すると、食満くんが「おーい休憩だ」と皆に声をかけるとわらわらと集まってきた。おにぎりに群がりあっという間に皆の胃の中に収まっていく。やはり成長期、あ…一応私もか。成長期の男の子は腹がよく空くのだろう。
「あらら、しんべい君鼻水拭いてから食べようね」
「喜三太くんは口の周りにお弁当つけてるよ」
私と食満に挟まれて座る一年は組の世話をやいていると、食満にジッと見られているのに気づいた。え、なになになに?今までジッと見られていたと思うと顔をあげにくい。
「食満くんよ、何をずっと見てるんだい」
「ん、いや、別に」
ふいと顔を戻す食満。いやいや、絶対見てただろ、ガン見に近いくらい見てたじゃないか。
「あれですよ!花子さん」
ちょっと待ちな喜三太くんよ。
何を言うつもりだい。
両頬に手を添えて顔を赤らめるそれは絶対変なことを言う予兆にしか思えず苦笑いを送る。
「花子さんが可愛いから食満先輩見ちゃってたんですよ〜」
「!?」
食満を見れば目を真ん丸く開いている、それにワナワナと震えて頬が赤くなってきた。待て、食満くんよ。否定するなら「ちがう」の一言で済むでしょうが。そんなんしたら、こ、こここ、肯定と受けとっ…。
「わぁ〜花子さん真っ赤〜」
「お前等からかうな!花子さんが困るだろうがっ!」
「うわ〜食満先輩ひっし〜」
「お前等なぁ、…うちの後輩がすまない」
その謝罪に対し首を横に振って大丈夫だと伝えるが子供たちのからかいは止まらないみたいだ。食満先輩敬語じゃないだとか、本当の所どうなんですか、とかこういうのにも慣れていない私はもう既に茹で蛸みたいなのだろう。顔が熱い。
「…!」
「おにぎりのお盆とお茶入れてある筒、使い終わったら食堂に置いといてくれれば良いから…じゃっ」
居た堪れなくなって顔を抑えてその場を後にした。六年生なんて歳下だし七松みたいなのの集まりかと思えば子供なのは七松だけだったのだ。背丈も私よりも幾分も高いし体つきも違う、それに…男の人から優しくされた事ないからもう本当恋愛沙汰とか苦手だ。
もう婚期を逃した女を、そんな風にからかわないで欲しいよ。本気にしてしまうから。
(平太、俺等空気みたいだったな。もう少し食堂のお姐さんと接するべきだ!)
(……はい、そうですね)
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