■ 33話/おにぎりを届けたいのに。
「っこれはこれは七松先輩、仲が宜しいのですね」
どうしたんだこの状況。やめなよと三郎と同じ顔の不破くんが止めている。
私たちはおにぎりを作り終え、七松のお世話を頼んだが役に立たなかった米谷くん改め竹谷くん…ん?どっちだっけ米谷、竹谷…まぁ、米谷くんに頭を下げて二人と別れ、用具委員へおにぎりを届けるために食堂を後にした。
すると鉢屋と不破くんが前からやってくるじゃないか。いつも通りに「やぁ」と声を掛けたのだが応えたのは不破くんだけ。
鉢屋と言うといつもの死んだ魚のような目が更に細められ、その視線は私の後ろに向けられていた。
『え、なに、鉢屋霊感とか…』
「なんだ鉢屋」
『びゃ!?』
心臓が飛び出るかと思った。
食堂で竹谷と一緒に別れたと思っていた七松が後ろからひょいとさも当然の様に顔をだすんだもの。
「なんだじゃないですよ」
「しかし私を睨んでるじゃないか」
え、鉢屋いやに喧嘩腰なんだけど、久しぶりに私としゃべってくれるかと思えば七松とケンカですか、そうですか。
「私に何か言いたい事があるのか?」
「いえ、別に」
「じゃあ私たちは早く行かねばならない所があるから、じゃあな」
なんだかよく分からないけど、そうだっけ。
七松が正論を言っているので少し驚いた。まぁ確かに早く届けないと!と肩にポンと置かれた七松の手には何も触れずに私も鉢屋へ「じゃあね」と言って通り過ぎようとすれば手を後ろからグイーッと引っ張られる。
『なになになにっ!?』
今初めて男女の力の差を感じた。
引力に逆らったあたしの身体は急ブレーキをした。
大変だよ、腕がもげそうだ。
「っこれはこれは七松先輩、仲が宜しいのですね」
そして冒頭に戻る。
ていうか本当に手が千切れそう!
なにを言うかと思えばあたしにではなく七松に話である。あたしの手をなんだと思ってやがるんだ。
『いだだだだっ、鉢屋痛い!』
「なんだ鉢屋、花子に何か用なのか?」
痛い痛い痛い!
七松にも肩を引っ張られ今にも千切れそうだ。
とりあえず七松と鉢屋に訴えるが聞いてないみたいで、止めに入ってくれている不破くんもあまり効果はない。
「はぁ?仮に用があったとして七松先輩には関係がない事ですし。あ、そうだ。ちょっと外してくれませんか大事な用事なので」
鉢屋があたしに大事な用?少し疑問にも感じたがもしや今まで避けていたから仲直りとかしたいのかなと心の奥底で思って七松に『あのぅ、ちょっと手を』と言ってみるが効果はないみたいだ。
「嫌だ。そんな嘘丸出しの顔で言っても離さないぞ、鉢屋。それから花子の腕を離せ、痕になるだろ」
「ではそちらから離してくださいっ」
「普通は後輩のお前が譲るものじゃないのか?」
もう本当どっちでも良いから。ギリギリと肩と腕が締め付けられて悲鳴をあげている。
『痛いっ、ちょっと…もういい加減にしろっ!』
身体で思い切り振り払うと二人とも目を驚いた顔をしている、怒らないと思ったのかこのバカちんがぁ。
『もういい一人で行くから七松も着いて来るなと言えばしゅんとしてしまった』えええ、そんな大型犬みたいになっちゃうの?え、私落ち込んだ事とかないけどって顔じゃん。
まぁ無視するけど。
すたすたと歩いていれば鉢屋がちょっと待ったと追いかけて来た。不破くんは七松を抑えているのだろうか。大丈夫かな?
『…鉢屋あたしのこと嫌いでしょ、何で追っかけてくんのよ』
「は?誰が嫌いって…そうじゃなくて、待てよっ」
そう強く呼び止められて振り向けばなんだがいつもの死んだ魚の目をしておらず、なんだかいつもよりも目を開いて必死に…ってないない。
『用ってなに?』
「え、あー…その…」
『もう!本当は用なんてないんでしょ。ただ七松に喧嘩売りたかっただけでしょ?もうさ、なんなんだよ鉢屋のアホ』
「…は?」
『最近あたしと話してくれないし目立ってあったら直ぐ逸らすしなんなの、あたしは勝手に仲良くなったと…』
「え、それって」
『鉢屋が話してくれなくてずっと寂しかったのに…もう、なんなんだよバカー!』
廊下を駆け抜けてやった。廊下を走るなと注意されても止まる気は更々ない。用具倉庫まで直進だ。もう鉢屋なんて知らない、初めて仲良くなった友達だと思っていたのに、あたしだけだったんだ。でも、ちゃんと謝ってきたら許してあげよう…と思う。大事なお友達だから。うん、友達ってそういうもんだもんね。
(あ、三郎っどうだったー…ってどうしたの?耳真っ赤だけど)
(え、ああ、うん、あーやられた…)
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