■ 28話/仕事着だけよ。
「うん、やっぱり可愛いね」
食堂の椅子へ座り、終始微笑んでいる利吉。彼をどうにかして下さい、恥ずかしいことこの上ないんだ。私なんかを褒めるだなんて可笑しいぞ。
「そうやって分かりやすく顔を赤くさせる所もね、あっはっは」
いや撤回する。
褒められているのではなく弄られているのだ。だって見ただろう、ここへくる際のくノ一の子達の利吉の人気を。
「うっうるさい、何食べる?」
「君に任せるよ」
どこからどこまでも調子を狂わせる男だ。
さっきはうどんを食べたからご飯の方が良いだろう、それに重いものもいけないし…これでいーや。
しかし作っている間も視線が途切れる事はなかった。チラチラ確認すればにこーっと微笑まれてしまう。
うう…ニガテだ。
「あれ?利吉くん珍しいね食堂にいるだなんて」
「土井先生こそどうしたんです?」
え、土井先生?
チラリと受け渡しをする所から覗いてみれば土井先生が此方を向いた。
「利吉くんこそ何をしてるんだい?」
「あはは、土井先生、食堂といえば食事をとる処でしょう。花子ちゃんの手料理を食べる為ですよ。それもですが…仕事着を拝見しにっ」
ねーっだなんて気安く笑い掛けないで下さい。
「土井先生、利吉くんは私を弄るんです。これは列記としたイジメじゃないでしょうか」
「好きな子ほどイジメたくなるって言うでしょう」
「は?」
自然と私の手が利吉くんの胸ぐらを掴んでしまった。近づいてそーゆう冗談は止めて下さいよッ!!と彼にだけ聞こえるように言えばにこやかな顔を絶やさずに冗談はあまり言わない性分なんですと言う。
「いててて…で、土井先生は何か用ですか?」
「………いや、私は別に…後で出直すよ」
少し罰の悪そうな顔をして食堂を出て行く土井先生を見てワナワナ震える。
「り、り、利吉くん君は何をしたいの?土井先生が行ってしまわれたじゃないかあああ!!」
ガクガクと揺さぶるがあっはっはと笑うこの男、くそおおお!と嘆いていればまたもお客さんのようだ。
「おっばちゃーんメシ下さー…ッアベシ!!」
花房だ、良い所に花房が来たので膝を喰らわせといた。壁にめり込んでしまった…後で用具委員の食満くんに頭を下げて頼まないと。うん、正当防衛だよ、うん。
「うわぁ…君と一緒になったらかかあ天下だね、少し怖いよ」
「あんたとはなる気はない」
めり込んだ花房を食堂の裏手へ捨てながら思う。好きな人と共になったのなら夫をたてるわい…土井先生とか土井先生とか土井先生とか。
「花子ちゃんの手料理が食べれて私は幸せだよ」
少し遠くで聞こえるその言葉に心で笑う。
(それ、おばちゃんの作り置きだから)
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