■ 16話/頂き物はそれはそれは。
シナさんが手にしていた物は大きな大きな風呂敷に包まれていた衣服であった。
「私はもう着ないから、貴方にあげるわ」
そう言って広げた着物はまだ綺麗でとても色煌びやかな物ばかりで、戸惑うばかりだった。申し訳なさ過ぎる。
「いや、こんなには貰え「あげるわ」
言葉を遮られた。
じゃあ、ありがたく頂戴します。と引き寄せると嬉しそうに笑うシナさんはあたしにいつかあげようと思い捨てないでおいたのだと話してくれた。
「でも、街で話すだけの身元も知れない女からなんて貰ってくれないと思って」
確かに、頂けませんの一言だろう。お礼と言っても何も持っていないし、売り物の野菜をあげたら破綻するし。今となっては仕事場の人だから、なんだか嬉しい。
「ありがとうございます…」
「いーのよ」
シナさんは部屋を見渡すと眉を寄せた。どうしたんだろう?汚くはしてない筈なんだけどなぁ。
「何も、持って来ていないの?」
ああ、痛い所を突かれた。私は頷く。
「特にいらないと思ったので…」
持って来ると言っても何もないですし、からから笑うあたしに手が伸びてくる。
びっくりして目を閉じるとシナさんは微笑みながら溜め息を吐いてあたしの頬を擦った。
「こんなに良い物をもっているのに、何も飾らないなんて勿体無いわ」
磨けばどんどん光るのに、と擦る擦る。痛い!痛い!と暴れれば手が離された。
「年頃でしょう、もっと楽しみなさいな!」
ここで働けば生活するには困らないのだから、櫛や紙紐や簪だって買っても大丈夫なのよと手を取る。ぎゅうっと握られ凄まれると何も反論が出来ない。
「わ、わかりました…給料が入ったら色々揃えに町に行きます」
狼狽えながらもそう答えると、よろしい!と頷いて満足気に笑った。
「ちゃんと休みの日には年頃の女の子らしく、ね?」
外にこれを着て出ること、約束よとウインクするシナさんはお化粧は私が教えると濃くなっちゃうから若い子に教わりなさいな、じゃあねと手を上げ部屋を出て行った。
なんて格好良いんだろう。
小松田くんじゃないけど…
「あたしもああなりたいなぁ」
ぽつりと口から零れたあたしの本音。
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