■ 18話/学園だから当たり前。
「何を言ってるんだ、花子」
あたしは七松が言っている事が理解出来ずにいた。学園なのだからあって当然なのだとは思うのだけれど。信じたくない。
「え、嘘だあ」
「嘘も何も、明日から連休じゃないか」
〆
ぽつん、学園には生徒はあまり残って居らず暇だった。そうだ、小松田くんなら残っている筈だっと事務室に顔を出すと吉野先生が机に向かっていて小松田くんはいなかった。
「実家に帰ってますよ」
「そうですか」
唯一の友達らしい友達もいないし如何したものかと考えを巡らせたものの何も浮かんで来なかった。
下級生は家の手伝いで帰っているというし、上級生は自習や実習に勤しんでいると聞いた。
とぼとぼといつもは歩かない中庭を歩いていると手裏剣が落ちていた。誰のだろう。
「用具委員に持っていくべきよね」
しかし、こういざ持ってみると好奇心が湧く。しかも、近くに的がある。辺りを見回し少し離れた所から投げてみた。
「うわ、全然だめだ」
投げた方向とは全然違う方に飛んで行くし、半分も飛んでいない様を見て笑う。
「才能のかけらも無いな」
出たよ。
「何であんたがいんだよ」
そう言って、木に背もたれる鉢屋を見据えるとにやりと意地の悪い顔をしていた。
よく私だと分かったなと口にしていたが、そんな事を言うのはお前しかいないんだよ。不破くんがそんな事を言う筈が無いじゃないか!
「で、暇なのかお前」
お前呼ばわりとは、ぐぬぬ。
「ううん、今とても忙しいの。じゃあね」
早くこの場を去りたいので手を振り背を向けるが鉢屋の意外な言葉に立ち止まってしまった。なんだと?
「変装、見せてやろうか」
あたしは振り返る。随分と得意そうに言う鉢屋に別にと言ってやりたかったのだけど、好奇心には勝てなかった。
「見せてくれるの?」
「ああ」
木の木陰であたしは驚きの声を幾度もあげた。素早く顔を変える姿に鉢屋の通り名は本物だと震えた。感動で、震えた。
「す、凄くない?凄いよね、触ってもいいかなぁ」
「だ、駄目に決まっているだろう」
うわぁ、触りたい。次々に変装していく鉢屋がしんべい君になった時には腹を抱えて笑ってしまった。バランスっバランスっ!
次は誰に…
「何だ、如何した」
中身は鉢屋なのだから別に大丈夫な筈だった、何も別状は無かった、筈なのについ身体が強張ってしまった。
その顔が土井先生だったから。
土井先生はそんなに背も低くないし、意地悪な目付きもしていないのだけどやはり見つめられると近いし恥ずかしくなる。
「い、いや、別にっ」
数秒置いてふーんとから返事をすると辞めたと元の不破くんの姿に戻ってしまった。
じっくり見るチャンスだったのに、あたしの馬鹿と心の中でジタバタするがそんな気持ちも知らない鉢屋は帰ると後ろ盾に手を振り去って行ってしまった。
そう言えば、本当の顔はどんなんなんだろう。きっと隠すくらいなのだから不細工なんだろう、ばーかばーか。
「また、暇になっちゃった」
とぼとぼと部屋に戻ろうとしていると唸り声が聞こえてきたので覗いてみると土井先生が頭を抱えていた。どうしたのだろうと声を掛けると補習授業の事で悩んでいるのだと言う。
「再び教えなければいけない事が多すぎて」
どう埋めようかと考えて居たのだと言う。教師は大変だ、しかもあののほほんとしたクラスなのだから尚更教えるのが大変なのかもと思った。性格は本当にいい子達なんだけどな。
「お茶入れますから、一息入れませんか?」
「すいません、花子さんも休日なのに」
いーえ、丁度暇だったんですと笑い、お茶をいれる為に立ち上がる。ここ何日かで本当成長したと思う。動揺せず二人で話せるのだから、近くなければ、一定の距離を保っていれば。さっきの鉢屋の距離は駄目だよ、近すぎるもん当たり前じゃん。
そう言えばおばちゃんから貰ったお饅頭があったんですと部屋を後にした。どうしよう、にやにやが止まらない。頬を抑えながら自室に向かう姿を遠くから伺われていた事をあたしは知らなかった。
「何だあのだらしの無い顔は」
「不細工め…」
_____________
「お待たせしました、どうぞ!」
「ああ、ありがとうございます」
あー、幸せ。
[
prev /
next ]