■ 17話/年上なんだぞ、お前達。
初めてこの学園で過ごす夜はあまり寝付きが良いものではなかった。
なんだか遠くでギンギンと声がするし、慣れない枕で寝るのもあった気がする。
「ふぅ」
「あら、おはよう。花子ちゃん、早かったのね」
おばちゃんよりも早く食堂に着いてしまったあたしは包丁を研いだり、野菜を洗って待っていた。
食堂の朝は早く、顔を洗った時に見た空は朝焼けに染まっていた。
「おばちゃん、おはようございます」
なんだか早く起きちゃって、と笑うと包丁と野菜を見て喜んでくれた。うふふ。そんなに喜んでくれるのなら、いつも早起きしちゃおうかな、などと思ってしまった。
おばちゃんが来るまで凄い時間があったし、それでは睡眠時間がなくなってしまうから大変なのだけど、一人暮らしを長くしていたあたしにはそれでも良いって思うほどにとても嬉しかったのだ。
しかしおばちゃんがここまで喜んでくれるのなら毎日、包丁を研ぐのをあたしの朝一番の仕事にしようと心を踊らせた。
「さて今日も頑張ります!手ほどきお願いします、おばちゃん!」
気合いをいれる為に腕まくりをするあたしによろしくね、と鍋を持ちながら笑うおばちゃんは朝日に照らされてとても綺麗に見えた。
〆
「すまなかった」
「は?」
朝御飯の支度が終わり食堂の裏で蒔に使う為の丸太に腰を下ろしていた時の事であった、昨日の…何て言ったか、あの喧嘩を売ってきた男が謝ってきたのだ。
「えと、君は双子の…なんだっけ?」
「鉢屋だ、鉢屋三郎」
凄い睨んでくる。何だこいつ、謝る気あるのかこいつ。
「別にいーよ、鉢屋くん」
何でこんな早くにこんなとこにいんの?と聞けば鼻を鳴らし、別にっと何処かに消えてしまった。ああ、謝る為に来たのか可愛い奴だなとついニヤニヤしてしまった。
まぁ、皆に身の潔白を知ってもらえたようで良かった。あっ、そろそろ戻らなくちゃ。あたしはすっくと立ち上がる。
「いっただっきまーす」
大きな声と朝から食欲旺盛な子供達の姿を眺めては顔が綻ぶ、これは一生治らないのであろうな。
「ご馳走様でしたあ」
ぞろぞろ入って来ては出ての繰り返しだが、やはり濃い。この生徒、教師のキャラクターが濃いのだ。少し話してみると引いてしまうほどに。
「あ、あの、おばちゃん?先生方も負けじと濃いね」
「うふふ楽しいでしょう」
あははと笑ってしまったが本当は楽しかった。色んな人と話せて色んな人の個性が面白くて、そしてこの仕事がとても。
「「おはようございます」」
食堂に訪れたのは五年生の集団であった。勿論その中には鉢屋くんもいて、少し隠れるように後ろにいたからお盆を渡しついでに話しかけてみた。
「鉢屋くん、朝は「黙れ」」
「え?」
「黙れと言っているんだ、私は別にお前と仲良くするつもりは無い」
え?二度聞きしてしまった。じゃあ朝の何?と言おうとしたがお盆を奪われさっさと席に着いてしまった。
「すみません、お姐さん」
三郎にも悪気はないんだと思います多分昨日の今日で気まずいのかと、と苦笑いする優しそうな双子の片割れ。なんて性格の違いなんだろう、同じ腹から出て来たのに。
「ありがとう、鉢屋くん」
「あ、その…えっと」
何を虚度っているのだろうと首を傾けるとこれまた身長の高い青年と髪型に特徴がある子がぐいっと出て来た。
「鉢屋はあっち」
黙々と朝御飯を食べる性格が捻くれている方を指差し笑う爽やかな男に更に首を傾げる。
「あっち?でもこっちも鉢屋くんでしょ?」
「これが本物。あっちが偽物」
特徴のある髪の子が説明を始めた。あっ、昨日の豆腐の子席に着いて食べ始めちゃったけどいいのかな。
「そ、そんな事もできるの?」
こう、捲るとばりっと?と身振りでやると笑いながら頷く。鉢屋三郎はこの不破雷蔵の変装をいつもしているのだと言う。しかも、学園一の変装名人だとか。不破くんと鉢屋くんを比べてもやはり目付きが悪いのだけしか違いがわからず呆気に取られてしまった。
「俺達、もうお姐さんは刺客じゃないって分っているから」
ぷふっと笑われた、悪気はないって分かっているから許すけど。
「そうそう素人なのが丸わかり過ぎだし」
それに、おばちゃんともシナ先生とも知り合いだったんでしょ?っと聞かれ頷く。
「しかも、あの七松先輩とも仲が良いみたいだし」
「信じるしかないよなぁ」
なぁ、と顔を合わせる片方に違和感を感じる。こっちの髪の毛の方。
「ちょっと髪の毛くん、あたし年上」
「尾浜勘右衛門、勘右衛門でいいよ」
後ろの二人を見れば苦笑いをしていたのでこいつはこういうマイペースな性格なのだなと納得した。
ていうか上級生、年上を敬えない奴多くないか?
もう、いーや。敬語だろうとなかろうと、言って通じる人なんていないだろうから。
皆が食べ始めた時、鉢屋が此方にお盆を下げに来たので少しからかってみた。
「鉢屋くんて変装名人なんだってね、凄いじゃん」
案の定、ふんっと顔を背け出て行ってしまったが耳が赤くなっていた。はんっ、勝ったな。
「花子さん、おはようございます」
「ど、土井先生…おはようございます」
今日も良い日になりそうだ。
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"こっ、小松田くん?!どうしたのそんなボロボロでっ"
"脚立から落ちた拍子に棚から色々落としちゃって"
"暇が出来たら手伝いに行くね…"
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