■ 09話/暴君、妖精引き連れ現る。
昼間は子供達が可愛かったな、土井先生もやばかったな、と顔が緩んで止まらない。
おばちゃんにも、そう、そうやっていつも笑ってればお嫁にもすぐよ!すぐ!と凄まれてしまった。
「野菜を買いに行っていた時にもお見合い話持ちかけようとしてたのよー?」
などと言う、会った事もない人の所へお嫁になどそんな怖い事できるわけない。お見合い話があったとしても丁重にお断りしていただろう。
「土井先生なんてどーお?若いし」
ぎゃひー!直ぐにお受けしますよ、そんな話!!まぁ、そんな心の声を口に出せるわけがなく、黙って顔を赤くしたあたしにあら可愛いと笑って魚を煮るおばちゃん。
「か、からかわないで下さいよ」
さてと、と腕まくりをする。
今日の夕飯の野菜洗いを任されたのだ。綺麗に洗おう、ごしごし。あっ、今日のご飯は豚汁と小鉢と煮魚定食のA定食、唐揚げのB定食だ。
唐揚げなど、初めて見るものだからおばちゃんが揚げる鍋に近づき凝視してしまった。
「あらあら花子ちゃん、唐揚げ初めて?」
「はい、珍しいものでつい」
油が跳ねるわよと注意してくれるおばちゃんに親指を立てる。まぁ、顔に跳ねたとしても直ぐに洗って冷やせば良い。元から化粧などしないので対処が簡単だ。
ゴシゴシ野菜を洗いに戻ると何やら騒がしい声と共にデカい男が飛び入ってきた。
「いけいけどんどーん!!」
今日の夕飯はなんだ、おばちゃーんと顔を出した緑色の忍び装束。
あちゃー、目が合ってしまった。
直ぐに反らした。だって怖いでしょ、絶対上級生だもの、私を良く思ってない者も多いじゃないか。
「あー!早速いるじゃないか!」
やべぇ、中に入ってきた。おばちゃん何とかしてと目配せしたが笑うばかりで何もしてくれない。
「なぁなぁ、確か花子さんだよな?」
右左と覗き込まれるがふいふいと視線を避ける。な、なんだコイツ、あたしの事嫌いじゃないのか?
「歳は幾つだ?私達よりも上というのは本当か?背が小さいな。目が大きいな。髪が少し茶色いな。」
「ちょ、ちょっと!」
さっきから近づき過ぎじゃないか、髪の毛触ってるし。あんまり、男の人と接した事ががないので焦って顔をグイッと押しやった。
「あまり近寄らないでっ」
「花子ちゃん、ほんと初心ねぇ」
くすくすとおばちゃんが笑った。う、ウブだと…仕方がないじゃないか!今まで十六年間、男と交流など無かったのだから!
しかも髪が少し茶色いのは畑仕事で髪が少し焼けて痛んだからだ、ちくしょう!
「ん?どうした?」
こいつは、何にも考えてないのか。ぽけーと此方を見てハテナを浮かべる奴に呆れた。
「歳は十六。貴方よりも何個か上よ。」
そうか!とドングリの様な大きな目を瞬かせた。
「私と一つしか変わらないじゃないか!」
私、七松小平太だ!と元気に挨拶された。こいつ、最上級生なのか?初っ端からグイグイ来られたから驚いていたけど、ちゃんと挨拶できる礼儀があるんじゃないか。
ふーん、最上級生だったか。卒業年なのだから忍者として凄いのだろうなと考えていると、スタスタと中に入る同じ緑の忍装束。
「あれ、友達?」
あたしが指をさすとそちらの方に大きくてを振る七松さん。
「中在家長次だ、私と同じクラス」
近づいて来たが、全然表情を変えない。え、あのと声を掛ければ七松さんが中在家くんに山田は私達より一つ歳上なんだ!と、あたしの紹介してくれたが否応なく背中をバシバシ叩かれた。
「小平太、山田さんが痛がってる」
しゃ、しゃべ、喋った。
「ああ、花子は一般人だったな!」
がはは、忘れてたと大袈裟に笑う七松さんと中在家さんはあたしの事を食堂のお姐さんとして受け入れてくれたらしい。
七松が呼び捨てだが…。
「花子ちゃん彼氏募集中だからっ、仲良くしてあげなさいね」
「おば、おばちゃん!!」
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なんだかホカホカする。
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